LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.04.28

パリ12ヶ月雑記帖 “avril” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、1歳の息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。今回は、春の本格的な訪れを感じさせる旬の食や花々の便り。

4月某日。雪。
もう4月だというのに、まさかの、今季初の雪。最高気温は4度。前日から雪予報は出ていたものの、“ポワッソン・ダヴリル(エイプリル・フール)”なのではないかと、にわかには信じ難かった。春がきたかと思えばまた遠のき、ここのところ、すっかり気温に振り回されている。午後になっても雪は降り止まず、息子と一緒に外に出て、少し散歩をした。雨とは違う、白くて、地面や服に着くとすぐに水になってしまう不思議なものが空から降ってくるのを、興味深げに何度も仰ぎ見ていた。

4月某日。晴れ。
マルシェでは春野菜が旬を迎え、待望のアスペルジュ・ブロン(ホワイトアスパラ)も出てきた。日本にいたときには注目していなかった存在だけれど、瑞々しく太い茎にギュッと甘みが詰まっていて、我が家の春の食卓には、かなり頻繁に登場する。オーブンで焼いても、茹でても煮ても、美味しい。炊き込みご飯にするアイディアを友人に教えてもらい、冷蔵庫にあった帆立と一緒に炊いてみた。おかずなしでも、何杯でもおかわりできてしまう。もう少し季節が進めば、オクラのように粘り気のあるアスペルジュ・ソバージュが店先に並び始めるのだが、そちらも絶品だ。
リュバーブも、だんだん真っ赤に色づいたものが出始めて、夫が毎年恒例のコンフィチュールにしてくれた。パンにつけたり、ヨーグルトやグラノーラにかけたりして食べる。

4月某日。快晴。
最近引越しを考えており、毎週のように物件を見に行っている。日頃、他人様のアパルトマンの内部を見られる機会はそう多くないし、建物のつくりや暖炉跡、天井の装飾、肝試しのような地下のカーヴ(物置)……それぞれに特徴的で、見学するだけでも毎回楽しい。ただし、家賃が高いパリでは予算と希望条件に合う物件を見つけるのは大変なのだが、今回の物件は、これまでに見てきた中で総合的に一番気に入った。小さな中庭があるのも嬉しい。家が決まれば、次はさてインテリアをどうするか。楽しい悩みは尽きない。

4月某日。快晴。
パック(イースター、復活祭)が近づき、パリのパティスリーやショコラティエには、うさぎや卵、魚を象ったショコラがずらりと並んでいる。なぜこれらがパックの象徴になっているのかというと、「多産」や「生命の誕生」を想起させるからなのだそう。また、フランスの家庭では、庭(や家)のあちこちに小さなショコラを隠しておき、子供たちが宝探しのように探して集めるという遊びがよく行われている。
夫が、この時期にしか食べられない、卵の形のショコラの中にノワゼットやパッションフルーツが入ったケーキを持ち帰ってきてくれたので、パック前だがフライングで食べた。口の中でパチパチと弾けるパッションフルーツの種やサクサクのサブレ、カリッとしたノワゼットの食感が、面白い。濃厚な甘さとフルーツの酸味のバランスも絶妙で、あっという間に食べてしまう。

4月某日。快晴。
パリ郊外、シェライユの花農家に住む友人家族のところへ。車で走っているときから目に飛び込んでくる、一面の菜の花畑があまりにも美しく、思わず歓声を上げる。菜の花の背丈はとても高く、息子が畑の中に入るとあっという間に姿が見えなくなってしまうほど。
昼食には、プレ・ロティ(鶏の丸焼き)をたらふくご馳走になってしまった。長袖のブラウス一枚でいても汗ばむほどの陽射しの下、地面から力強く、のびやかに空へと向かう花たちのエネルギーに触れ、心身ともにめいっぱい充電できた。幼い息子を自然のなかで思い切り遊ばせられることも、とても貴重でありがたい。

4月某日。快晴。
息子の通う保育園の、“partager des temps d’atelier avec votre enfant(カジュアルな保育参観のようなもの)”に参加してきた。園内のエリアごとに、お絵描き、色粘土、砂場、パンづくりなどのアトリエ(ワークショップ)が行われていて、子供たちは好きなところへ自由に行き来できる。もちろんアトリエに参加せず、園内のおもちゃで遊んでいても良い。息子はしばらくお絵描きコーナーの様子を遠くから眺めていたが、意を決したようにテクテク歩いて行って先生にスモックを着せてもらい、絵筆を手に取り、壁に貼られた白い紙に、思うまま色をのせていった。
普段家にいるときの息子よりも大人びた表情をしているようにも見え、初めての社会生活が彼にもたらした成長を感じる大きな発見だった。来週からは一時帰国。久しぶりの日本のこと、祖父母のことを、彼は覚えているのだろうか。日本でまた、新たな成長があるかもしれない。
 
 
[今月の花]フリチラリア
 

 
フリチラリアには、小さく繊細なメレアグリスから、葡萄のように鈴なりになって咲く大ぶりなペルシカ、傘が開いたような花を咲かせるインペリアルなど、様々な種類がある。いずれも個性的でありながらも、花はもちろん、葉や茎にまで色気を宿しているような優美さを持ち、個人的に大好きな花。友人のアートギャラリーの“ヴェルニサージュ(オープニングパーティー)”のために、展覧会のアーティストの作品をイメージして、フリチラリア・ペルシカをたおやかなチューリップと合わせ、その有機的なフォルムを存分に活かした装花に。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

text&photo: Yurika Moriya

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