LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.05.31

パリ12ヶ月雑記帖 “mai” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、幼い息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。5月は久々の帰国で触れた日本の花のこと、そしてまた迎えてくれたパリの街のこと。

5月某日。晴れ。
一時帰国が叶い、3週間の東京滞在。懐かしい世田谷の花市場に仕入れに通う日々が始まった。長年通った市場ではあるけれど、仕入れ前夜は緊張して眠れなかった。昔からお世話になっている仲卸さんから、顔を見るなり「おかえり!」と、変わらぬ朗らかな声をかけてもらって、心がほぐれた。
フランスと日本では、流通する花にも違いがある。日本で、日本の生産者さんならではの花に触れられることは大きな楽しみだ。岡山産のスイートピーの季節には間に合わなかったのは残念だったものの、今回、「水面の妖精」という名前のクレマチスに出会った。絵画のような美しさに一目惚れして、市場で迷わず手に取った。見れば見るほど、自然界が生み出した芸術にため息が漏れる。次の帰国時にはどんな花に出会えるのか、期待が膨らむ。

5月某日。晴れ。
息子と、父と、近所の商店街へ行く。古くからある有名な商店街で、下町らしく、往来する人々と店の人とのやりとりにも温かみがある。特にあてもなくプラプラと歩いていたのだが、惣菜やおでん、もつ煮込み、漬物、焼き鳥、鯛焼き、自家製の味噌……目に飛び込んでくるものすべてが気になってしまい、しょっちゅう立ち止まってしまう。
赤魚を買った魚屋の店主と父が気のおけない会話をしており、いつの間に交流を深めていたのかと、見慣れぬ父の姿に少し驚いた。息子は途中で寝てしまって、父が抱っこしながら歩いた。普段は皮肉屋の父だが、孫に向けるまなざしはとろけそうなほど幸せに満ちていて、今回の滞在では思いがけず、父のいろいろな側面を見たように思う。

5月某日。晴れ。
パリへ戻ってきた。昨今の世界情勢により、飛行機は迂回路を通り、飛行時間は14時間超にも及んだ。途中、「これから15分ほどアイスランド上空を通過します」という機内アナウンスがあり、私も含め乗客は皆、一斉に窓の外へと視線をやった。
いつか訪れてみたいと憧れている、アイスランドの地。真白い山脈も、そこに流れる川も、くまなく見ることができた。猛々しいまでの自然本来の強さ、美しさに、言葉もなくただ圧倒されてしまった。一緒に窓に張り付いていた息子は、「おっきーい、おっきーい」と、覚えたての日本語を繰り返し口にしながら興奮していた。

5月某日。快晴。
まだ5月なのに、真夏のような陽気が続いている。保育園で、園児たちの日常の様子をおさめたビデオの上映会があった。息子が集中して粘土をこねているところや、友達とおもちゃの取り合いになり抗議しているところ、様々な表情を見て、この園が息子にとって、確かな自分の居場所になっているのだと知る。
毎日泣いては一時間で帰ってきていた慣らし保育の頃を思い出すと、彼がここで居場所を見出し、着実に根を張りつつある事実にぐっとくるものがある。帰り道、息子がバンザイして空を仰ぎながら、満面の笑顔で走るので、私もつられて見上げてみると、生い茂った街路樹の、瑞々しい緑の天井があった。

5月某日。曇り。
前日に雨が降って少し涼しくなり、やっとこの時期らしい、心地良い気温が戻ってきたパリ。息子と一緒にいつもの公園へ行くと、中央のドームのところでコンサートが開催されていた。ここではたまに、パリ市公認の無料コンサートをしている。この日は、LGBTを掲げる3つのコーラスグループが合同コンサートをしていて、私たちが聴いたのは、mélo menというアマチュアの男声コーラスグループの歌唱だった。
レインボーカラーを表現しているのであろう、色とりどりのTシャツを着て、高らかにその歌声を響かせている。私たちは芝生の上に座り、聴き入った。観客も多く、拍手をしたり身体を揺らしたり、皆が思い思いに音楽を楽しんでいる。歌唱の最後、代表の男性が短い挨拶をして、「今この社会に必要なことは、お互いを認め、愛し合うことです。愛し合いましょう。」と語っていたのが印象的だった。皆、それぞれの想いを胸に、日々を生きているのだ。

5月某日。晴れ。
冷凍庫のアイスクリームのストックが切れたので、近所のワインバーfolderolへ買い足しに。この店はワイン専門店であると同時に、自家製のアイスクリームがとても美味しくて、アイス目当ての客も絶えない。いつでも、文字通り、店から人が溢れている人気店だ。
フレーバーはその時々で変わるのだが、この日はバニラ、いちごとバジル、ルバーブタルトの3種類を買った。夜、息子を寝かしつけた後、今日も一日頑張ったご褒美にと、少しずつ夫と食べるのが楽しみだ。

[今月の花]芍薬

日本では、母の日にカーネーションを贈る文化があるけれど、フランスには母の日といえばこの花といった特定の花はない。しかし、5月に旬を迎える芍薬のブーケを贈る人は多いように感じる。ふっくらと丸いかたちや、柔らかな花弁、甘い香りが、母の優しい抱擁を彷彿とさせることも理由の一つなのかもしれない。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

Text&Photos: Yurika Moriya

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