LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.09.30

パリ12ヶ月雑記帖 “septembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、幼い息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。日本に滞在していた夏の終わりからパリに戻って秋の気配が深まる日々をお届けします。

9月某日。晴れ。
深夜に都内を出発し、高速道路を1時間半ほど運転して、本栖湖畔へ到着。まだ夜明け前。車内で、撮影のため集まったチームのメンバーと打ち合わせをしていると、外に出ていたモデルが走って戻ってきて、「見て!」と空を指差した。いつの間にか太陽が昇ってきて、山の端が見事なピンク色に染まっていた。さっきまで薄闇の広がっていた空間に、今ではくっきりと山の稜線が浮かび上がる。
そのまま皆でゾロゾロと湖畔へ歩いてゆき、今度は湖面に映る、合わせ鏡の空の色を眺めた。幻のようなひとときは、静かな波音とともにスッと消えていったが、今年の夏をしめくくる、記憶に残る風景となった。

9月某日。晴れ。
東京最終日。息子たっての希望でお台場へ行き、水陸両用バス「KABA」に乗る。車や飛行機、電車と、一日中乗り物のことばかりを考えている彼にとって、水陸両用バスはまさに、夢の乗り物である。お台場だなんて本当に久しぶりで、新鮮だった。私も、またしばらく縁遠くなる日本食に悔いが残らぬよう、念願の塩ラーメンを味わう。
帰り道も、そのあとも、息子はずっと「バス、乗ったね」「バス、バッシャーン(バスが水に入る音を指している)」と言っていた。忘れてしまうのだとしても、彼にとって色鮮やかな体験を、数多く重ねてほしいと願う。そういえば、実家で絶え間なく日本語のシャワーを浴びていたお蔭だろうか。この夏の間に、息子は急速に日本語の語彙が増え、たどたどしいながらも文章で話すようになった。

9月某日。晴れ。
パリに戻った翌朝、マルシェで買い出し。蒸し暑かった日本とはまるで違って、朝晩は肌寒く、すでに秋の気配が腰を下ろしている。大好きな夏の果物のひとつ、ミラベルがまだ並んでいて一安心。一方で、もういちぢくも出始めていて、つい色々と買いすぎてしまう。きのこも今年、豊作だ。今季初のセップ茸を買い、夜はサーモンと一緒にオーブンで焼いて食べた。旬の味覚と香りに、少し夏の名残を引きずっていた心も一気に秋の色に染まる。

9月某日。晴れ。
フランスの映画監督ジャン・リュック・ゴダール氏の訃報を知る。私にとって、15歳のときに観た『アルファヴィル』『勝手にしやがれ』などのゴダール作品との出会いがフランスとの出会いであり、それからヌーヴェル・ヴァーグをはじめとするフランス映画、文学、そしてフランスという国に惹かれるようになったのだ。ゴダールは、今、私がこの街で生きることになったきっかけだといえる。また、彼が亡くなったという事実だけでなく、スイスで自殺幇助により死去したというニュースにも衝撃を受けた。
彼に想いを寄せて、日本から持ってきていたDVDの『気狂いピエロ』を鑑賞する。今では何だってオンラインで視聴可能な時代だけれど、「ゴダールのDVD」というのは、それそのものが自分自身の人生を振り返り、原点に立ち返るための象徴でもあるのだと気が付く。心からの敬意を込めて、冥福を祈る。

9月某日。晴れ。

パリでは、ファッションウィークに先駆けて、インテリアなどが中心のデザインウィークも開催される。普段定期装花をしているギャラリーでは、ATELIER GEORGEというフランスのガラスアトリエの展示会が行われるため、展示作品に合わせて装花をした。ガラスと植物の融合によって作られる一点ものの照明やオブジェたちからは、静かな生命力を感じ、作品に囲まれていると、深い森の中にいるようだった。

9月某日。晴れ。
まだ早いかと思ったが、朝の冷え込みに堪えられずついに冬物のニットを着た。
ファッションウィーク初日。コペンハーゲンからパリに到着したばかりのCecilie Bahnsenチームとの装花の打ち合わせから始まる。午後は、毎シーズンお世話になっているイタリアのブランドGUIDIのショールームに花を活けた。力強いコレクションをさらに引き立たせられるよう、動きのある野ばらの枝や個性的な植物をあしらい、空間のテンションを合わせた。
また、夜にはパレ・ド・トーキョーで開催された、東京のブランドCFCLのプレゼンテーションに出席した。コラボレーションしていたアーティストのNile Koettingらのパフォーマンスに釘付けになった。プラスチックなどの「資源」と「惑星」の意味をかけた「PLAnetの旅」というテーマで、ユーモラスな未来の宇宙旅行に誘われた30分間だった。

[今月の花]ダリア

秋の花といってまず思いつくのは、ダリア。
花弁の一枚一枚に風格が漂い、横顔も、後ろ姿も美しい。また、フランスでは蕾付きのまま売っていることが多く、最初は驚いた。
数ある中でも、カフェオレという品種のダリアは、自身のパリでの結婚式で師匠たちが挙式した教会の装飾に使ってくれた花で、思い入れがある。華やかなダリアと、パンパスグラス、キャロットソバージュなどの野の植物たちで作られた特大のアレンジメントは、クラシックな教会の荘厳な雰囲気にも引けをとらず、それでいて野趣あふれる、洗練された美しさだった。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

photo&text: Yurika Moriya

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