LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2023.09.28

パリ12ヶ月雑記帖 “septembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。今回は、気持ちの良い晴れの日が続いた9月パリの様子をお届けします。

9月某日。晴れ。
新学期。ついに息子のécole maternelle(幼稚園)が始まる。
フランスでは幼稚園から義務教育で、3歳で年少にあたるPS(プチ・セクション)に入学し、4歳でMS(モワイヤン・セクション)、5歳でGS(グラン・セクション)へと進級する。息子が通うことになった学校では、PSからGSまで同じクラスに在籍する縦割り方式。運良く、同じアパルトマンに住む日仏家庭の女の子がGSで、息子と同じクラスになった。息子は彼女を見て少しほっとした様子。ちいさな身体が緊張でいっぱいになっているのが、握って離そうとしない手からも伝わってくる。これから三年間、この教室で、楽しいことも困難も、多くの出来事が彼を待ち受け、それを一つずつ、乗り越える強さを身につけてゆくだろう。

9月某日。晴れ。
悪名高い、パリの郵便事情。日本ではクレームものの“プチ”トラブルは日常茶飯事で、半ば諦め、慣れていたのだが、今回は立て続けに2度、被害に遭ってしまった。
1度目は盗難。ドイツから子ども服を通販したところ、届いたパッケージに一度開封された跡があり、嫌な予感がして中身を確認すると、5点入っているはずの商品が2点しか入っていなかったのだ。先方に問い合わせるも、「全て発送したことは間違いない」とのこと。現状では、配達員による盗難の証拠を確保するのは難しく、ほとんどの人は泣き寝入りしているらしい。そして2度目は、また海外からの荷物が、何の連絡もないまま先方へ返送されていた。再配達を請求したところ、どうやら行方不明になったらしい。損害金額を思うとかなりショックなのだが、悲しいかな、これもフランス生活の現実である。ため息をつきながらカフェを飲む。

9月某日。晴れ。
19区のカフェMARDI(マルディ)にて、週末限定で花とうつわのPOP-UPを開催した。カフェのオーナーが声をかけてくれて、セラミストのCharline Robache(シャリーヌ・ロバシュ)とコラボレーションし、窓際の一角にブーケと陶器を組み合わせた空間を設えた。普段はフランス南部のドローム県に住んでいるCharlineのつくる、明るく自由な色彩の花器にブーケを飾ると、花も楽しそうに生き生きして見える。
活気のある、アップカミングなエリアと言われる19区。その火付け役でもあるMARDIには、うれしいことに土日ともたくさんの人が来てくれて出会いも多く、おいしいコーヒーを片手に、一人一人が個性的なお客さんたちと談笑している時間は本当に充実したものだった。

9月某日。晴れ。
フランスの「MilK MAGAZINE」の20周年を記念したPOP-UP STOREへ行ってきた。子どもと大人のための、モード、ライフスタイル、絵本やヴィンテージ家具まで、MilKの世界観が凝縮した空間で、いち愛読者としても心が躍る。見るだけのつもりが、つい楽しくなって息子のリュックサックと自分用にニットのストールを買って帰った。急に寒くなったり暑くなったり、数日の間にも気温の変化が激しく、毎朝、着る服に悩む。ストールやカーディガンなど、体温調節ができるアイテムは必須なのだ。それでも、マルシェには栗やイチヂクが出てきたりと、着実に季節は秋へと進んでいることを感じる。

9月某日。雨のち晴れ。
最近、息子があるTシャツを好んで着たがるようになった。弟からタスマニア土産にもらったもので、真ん中に、ふかふかと起毛したウォンバットのイラストがついている。どうやら、このTシャツがクラスの子たちから人気で、皆が集まってきてウォンバットのところを撫でてくれたそうで、本人はよほどうれしかったらしい。まだフランス語がままならないこともあって、彼にとってはこれが貴重な武器、コミュニケーションツールなのだろう。担任の先生によれば、泣くことは少なくなってきたが、寂しくなるといつも先生と手を繋いでいるらしい。彼の心細さに共感し、外の世界へ出ていこうとする勇気を誇らしく思い、エールを送る。

9月某日。晴れ。
ファッションウィーク初日。日中のスケジュールが詰まっているため、2時起きでランジス市場へ向かう。
終わりを迎えるひまわりや、野ばらの実、深く色づいたコティニュスの葉、ダリアやコスモス、フウセントウワタなど、芳醇な秋の花たちの醸し出す優雅さに魅了されながらも、各ブランドのイメージに合うものを吟味する。その一方で、もう初物のチューリップが出ていたり、資材コーナーにノエルのグッズが並び始めているのを見ると、一瞬、秋を飛び越えたかのような錯覚にも陥る。
日々の過ぎるスピードは歳を経るとともに早くなっていくように感じるが、一日一日、移り変わってゆく季節を大切に感じてゆきたい。

【今月の花】
アマランサス

アマランサスはもともと好きな花のひとつなのだが、今季は「ブラウンスパイダー」という猫のしっぽのようなふさふさの品種に一目惚れして、今月は市場に行くたびに仕入れている。ピンクブラウンからベージュの美しいグラデーションを見せるように、床につくほど長く垂らすのが気に入っているが、紫陽花やスモークツリー、フウセントウワタなど、ボリュームがあり丸いフォルムの花の隙間から覗かせるのもかわいい。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

Photograph&Text: Yurika Moriya

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