LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.07.29

パリ12ヶ月雑記帖 “juillet” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、幼い息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。きらめく夏のパリの様子と幼い子どもがアートに触れたときの喜びや驚きを綴った7月の日記をお届け。

7月某日。晴れ。
メンズファッションウィークが終わると、オートクチュールコレクションウィークが始まる。期間中、一点もの専門のジュエリーアトリエへ装花に行き、貴重なハイジュエリーや石を見せてもらった。
フランスでは、人生の節目にジュエリーをパーソナルオーダーし、代々受け継いでいく文化があるという。また、古いジュエリーを自分好みにリメイクするオーダーも多いのだとか。そんな、人それぞれのストーリーを聞くだけでも楽しい。そして、職人の技術を普段のファッションを通して身近に感じられることで、宝石そのものだけでなく、個人個人がこの国の文化を繋いでいく担い手にもなっているのだなとも思う。

7月某日。曇り。
行きつけのアートブックショップYvon Lambertで、Coco Capitánの新しい写真集『TRANS SIBERIAN』発売記念のヴェルニサージュ(パーティー)があった。Cocoは小柄で華奢で、どこか妖精のような雰囲気を纏っていた。はにかむ笑顔が少女のようだった。
写真集の青い色の表紙を指差して日本語で「あお、あお」と繰り返し言う息子に、「日本語で『あお』はブルーのことでしょう? ブルーは私の好きな色だから知っているのよ」と話しながら、本に息子の名前をサインしてくれた。「ALWAYS LOVE, LOVE ALWAYS. TO MY NEW FRIEND」と書き添えて。

7月某日。快晴。
“14 juillet”(フランス革命記念日)の日、息子は初めてトロチネットに乗った。トロチネットは、キックボードのこと。ベビーカーを卒業したパリの子どもたちが次にこぞって乗りたがるのがトロチネットで、2歳の誕生日プレゼントの定番でもある。
まずは近所のヴォージュ広場へ行って、練習することにした。普段は小心者の息子だが、いつも公園や道ですれ違うトロチネットを興味津々で見ていたから、すでに乗り方を知っていたのだろう、すぐに地面を蹴って滑り出した。しばらく遊んだ後、広場の中のCARETTEでアイスクリームとアイスカフェラテを頼み、休憩した。遊び疲れた息子は途中でぐっすり眠ってしまったので、抱っこしたまま家まで帰った。晴れた日の陽射しは日本よりも強く感じるけれど、一歩日陰に入れば涼しくて、過ごしやすい。木漏れ日が、砂の上にゆらゆらと水玉模様を編み出していた。

7月某日。晴れ。
Bourse de Commerceで公開中の展覧会へ。見応えがあると評判だったし、一人でゆっくり行こうかと迷ったのだが、結局息子と一緒に行くことにした。息子はすぐに飽きてしまって帰りたがるのではないか……そんな親の心配をよそに、息子は、思い切り楽しんでいたようだった。目の前の物事に意味を求めることもなく、または「理解できない」と諦めの距離を取ることもなく、ただ好奇心を持ち、受け入れ、遊んでいた。
ずっと観たかったRONI HORNの作品にも出会えた。美術館の学芸員さんが寛大で、息子がこの水が張ったような表面に手を伸ばそうとするのを私が全力で止めていたところ、「良いのよ」と触らせてくれたのだ。「それが子どもにとって自然な行動だから」と続け、「ブラボー」と褒めてさえもらえた。毎日磨いているから大丈夫なのだと笑っていたが、大人が触っていたときには注意していたので、おそらく子どもへの特別な寛大さなのだろう。ありがたい。息子はもちろん水だと思って触ったので、意外な感触に驚いて、不思議そうに何度も覗き込んでいた。

7月某日。晴れ。
夫が、今年最後のフレジエ(いちごのケーキ)を持って帰ってきてくれた。フレジエは夫の作るケーキの中でも特にお気に入りの一つだが、店でも人気商品なのでいつも売り切れで、おこぼれにあずかる機会が少ない。たっぷり空気を含んでいて、軽くて、いくらでも食べられて、でもしっかりと深い味わいがある。フレジエの季節が終わってしまうのが毎年名残惜しいが、秋冬になれば、今度はモンブランを待つ楽しみもある。この数年で、花だけでなく、お菓子を通しても季節を感じるようになった。バカンスが明ければ早くもノエルに向かって動き出し、だんだん忙しくなっていくのだろう。

7月某日。霧雨。
日本に一時帰国。久しぶりに、母方の祖父の暮らす函館へと向かう。ついに祖父に曽孫を会わせることができてうれしい。息子を寝かしつけた後、三世代で食卓を囲み、夜な夜な深い時間まで思い出話をした。祖父の、子どもの頃の話、学生時代のアルバイトの話、世界を旅した話、そして亡くなった祖母の話。話に出てくるのは私が会ったことのない祖父だけれど、母の茶目っ気や、ものを大切にして、何でも繕い修理して使うところは祖父譲りだったのだと再発見する。到着当日にチェーンの部分が壊れてしまったヴィンテージのネックレスも、祖父があっという間に直してくれた。これからももっと、祖父に聞きたい話がたくさんある。聞かせたい話もたくさんある。ずっと元気でいてほしい。

[今月の花]アーティチョーク

フランスでは、食用の野菜としてマルシェにもよく並んでいるアーティチョーク。花市場では、赤ちゃんの頭ほどの大きさのアーティチョークが切花として出ている。かたい鱗のような蕾の中から、紫色の細い花弁が覗く姿は唯一無二の存在感がある。シルバーがかった色味でギザギザした形の葉も、花に劣らぬインパクトがあり、格好良い。アーティチョークのみ一種で飾っても、オブジェのようで、空間の主役になる。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

text&photograph: Yurika Moriya

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