おいしいおはなし第47回『狼森と笊森、盗森』森と一緒に食べたい粟のお団子

「おいしいおはなし」では以前、『雪わたり』をとりあげ、声に出して読みたくなる宮沢賢治作品のオノマトペについてご紹介しましたが、今回紹介する『狼森と笊森、盗森』にも声に出して読みたくなる言葉が登場します。
舞台は岩手山の麓、小岩井農場の北にある4つの森。その森の名前は南から狼森(おいのもり)、笊森(ざるもり)、黒坂森(くろさかもり)、一番北にあるのか盗森(ぬすともり)です。ある日、4つの森に囲まれた野原に4人の農夫らがやってきて、森に尋ねます。
《「ここへ畑起してもいいかあ。」
「いいぞお。」森が一斉にこたえました。
 みんなは又叫びました。
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたえました。
 みんなはまた声をそろえてたづねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたへました。
 みんなはまた叫びました。
「すこし木(きい)貰ってもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたへました。》(12~13頁)
こうして人は古くからこの地に生きてきた森へ敬意を表し、森はその思いを受け止め、森と人との日々が始まったのです。冬の間、森は北風を防いでやり、春になると農夫らは地面を耕して種をまきました。秋になると穀物が実り、新しい畑や小屋も増えて、子どもも大人も輝かしい気持ちになります。

ところがある朝、子ども4人がいなくなってしまいます。農夫らは、また森に尋ねます。
《「たれか童(わらし)ゃど知らないかあ。」
「知らない。」と森は一斉にこたえました。
「そんだらさがしに行くぞお。」とみんなはまた叫びました。
「来(こ)お。」と森は一斉にこたえました。》(19~20頁)
探しに行くと、子どもらは狼森で狼たちにもてなされていました。子どもたちを連れて帰る大人たちに、狼たちは森の奥から叫びます。
《悪く思わないで呉(け)ろ。栗だのきのこだの、うんと御馳走したぞ。》(24頁)
狼森では狼が、笊森では金の目をした山男が、盗森では真っ黒い手の長い大きな男がその姿を見せます。彼らは森の住人というよりは、きっと森が人の前に現れるときの姿なのでしょう。森は農夫たちに好意を抱き、その暮らしに興味津々。おはなしに描かれるのは、両者が次第に心を通わせ友だちになる過程です。
さて、この作品の声に出して読みたくなる言葉というのは、もうお分かりになりましたよね、素朴な方言です。「きいもらってもいいかあ」「わらしゃどしらないかあ」「そんだら」「こお」「けろ」などの方言を声に出して読むと、なお一層おはなしの世界に引き込まれて、頭の中には銀の冠をかぶった岩手山の姿や森たち、そしてそこで一生懸命に働く農夫たちやおかみさんたち、遊ぶ子どもたちの姿がくっきりと浮かんでくるようです。
(以前この作品で朗読会を開催したとき、東北出身の女優さんに朗読していただいたのですが、そのネイティブの発音に大人も子どももわくわくしました!)
もうひとつ、このおはなしに登場する大事なもの、それは粟餅です。農夫たちは、仲良くなった森たちに毎年冬の初めに粟餅を作って届けるのです。
粟餅は、日本全国で古くから食べられている郷土食。黄色い粟のプチプチとした食感が楽しく、地味深い味わいで、あんこやきな粉とよく合います。今回は、おはぎを作る要領で、小さなお団子を作りました。あんこ入りの粟餅の味を知ったら、森はどんな顔をするでしょうね。

〔材料〕

(4人分)
米 2合(300g)
もち粟 100g
水 480㎖
塩 小さじ1/4
つぶあん 350g

〔つくり方〕
  • 米ともち粟を炊く。
    米は研いでざるにあげておく。もちあわは小ぶりのボウルに入れ、水をいれてその中で軽くゆすぐ。茶漉しなど目の細かいものを使ってそっと水を切り、米と合わせる。
    炊飯器の内釜に米ともちあわ、分量の水と塩を入れひとまぜして炊く。
  • つく。
    米ともち粟が炊き上がったら、内釜ごと取り出し、熱いうちにすりこぎやめん棒でついてもちもちにする。
  • 丸める。
    ❷を16等分にする。あんも16等分にする。
    大きめに切ったラップに分けた❷を1つのせ、ラップの余りをかぶせたら、手のひらでギュッと押して平らにする。ラップを剥がし、餅の中心にあんを置いたら、ラップできゅっとしぼり、丸っこい小判形にまとる。ラップを取ってしぼった方が下になるように置く。
    同じように全て包み、皿に盛ってできあがり。

もち粟を米と合わせて炊いておはぎふうのお団子にしました。冷蔵庫に入れると固くなるので常温におき、一両日中には食べ切ってください。

『狼森と笊森、盗森』
宮沢賢治作、小野かおる画(古今社)
このおはなしは、小岩井農場の北にある4つの森のひとつである黒坂森が語って聞かせてくれたもの。昔々、岩手山が何べんも噴火したあとに、岩手山の麓には次第に草が生え、木が成長し、やがて4つの森ができた。そしてある日、人間が森にやってきた。彼らは森に許可を得てここに畑を作って家を建てて暮らし始める。一生懸命に働く彼らの暮らしはつましいものの、年々畑も大きくなり、馬も増え、少しずつ実りを得ていく。ところがある朝、あるものがなくなって……。自然と人とがともに生きていた時代の、その豊かな交流を描く昔話。宮沢賢治らしい不思議な世界観のなかで展開される東北なまりの会話が楽しい。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子