LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.10.31

パリ12ヶ月雑記帖 “octobre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。気持ち良い秋のパリ、あちこち子連れおでかけした記録をお届けします。

10月某日。晴。
ファッションウィークも終盤。朝、パリの最高級ホテルとして知られる、ル・ムーリスまで、息子と一緒にブーケを配達した後、目の前のチュイルリー公園を散歩する。
雨上がりの公園は、ところどころ水たまりが残っていた。ふと、息子が立ち止まって指差す方向を見ると、メリーゴーラウンドがあった。息子は、その中の木馬ではなく、一台の緑色のクラシックカーに目が釘付けになっている。聞くと乗ってみたいと言うので、初めてのメリーゴーラウンドを経験することになった。1回だけのつもりが、結局回数券を買ったり、厚意でおまけしてもらったりして、なんと合計8回。見ているだけでも目が回りそうだが、息子はかなり気に入ったようで、飽きずに何度も同じ車に乗っていた。

10月某日。晴れ。
ルイ・ヴィトン財団美術館で新しく始まる企画展、「MONET MITCHELL」のヴェルニサージュに招待いただき、一足早く観賞してきた。
クロード・モネと、ジョアン・ミッチェルの2人の画家は、生きた時代が異なる(ミッチェルの生まれた翌年にモネが亡くなっている)が、不思議と作品が並ぶと、作品同士が対話しているような、時を超えて通じ合うものを感じられる。対比によりそれぞれの魅力が際立っており、素晴らしい展覧会だった。
展示ラストのモネの睡蓮の絵には圧倒され、脳髄にまで深く刻まれた。また、モネの睡蓮以外にも、アガパンサスや藤、アイリスの花を描いたものも多く展示されていたのも興味深く、いずれの絵からも花へ向ける視線の温かさを感じた。

10月某日。晴れ。
引っ越してから初めて、息子を連れて区の図書館へ行った。
子どもコーナーへ行ってみると、中でも小さな子向けの“Tout petit”という一角があり、床の上にたくさんクッションがあって、自由に座って読んで良いことになっている。まだ話さなくても耳ではフランス語を理解し始めている息子に、絵本とはいえ、私の拙い発音でフランス語の読み聞かせをすることは果たして良いのかと躊躇していたが、息子はお構いなしに好みの絵本を持ってきては夢中でページを繰っているので少しほっとした。言語教育についてどうすべきか、考える機会も近頃増えてきている。
ちなみにこの日は5冊借りて帰ったが、見事に全部、乗り物の絵本だった。

10月某日。晴れ。
ここ数日の冷え込みから一転、温かく、秋晴れの青空が広がる日。ヴォージュ広場へ行くと、広場の半分は封鎖されていて、工事中である。11月末まで工事は続くらしいが、予定通りに行かないフランス、きっともっと長引くことだろう。工事現場で働くショベルカーやダンプカーに興奮する息子を膝に乗せて、私はゴロンと芝生に寝転がって目を閉じ、日光浴。デッサンをしている学生やピクニックを楽しむグループ、思い思いに過ごす人々に混じって、地面と、貴重な太陽の光を体いっぱいに感じる。

4月某日。快晴。
早朝から支度をして家を出る。モンパルナス駅からTER(高速電車)に乗って、パリ郊外のシェライユへ。
あっという間に、見渡す限り畑の広がる自然豊かな景色だ。シェライユ在住の友人家族に案内してもらい、森に入って、きのこ探しをした。息子は、肝心のきのこは1つも見つけなかった代わりにどんぐりをいくつか拾い、森の中を好奇心のままに探検していた。木々の間を潜り抜け、苔生した切り株をよじ登り、転んで土だらけになりながら進んでいく姿に感動をおぼえる。
その日とれたきのこを昼食にいただき、友人が3日かけて仕込んだブフ・ブルギニョン(ビーフシチュー)や持ち寄ったワインやシャルキュトリー(ハムなど)、ケーキに舌鼓を打つ。

10月某日。晴れ。
家族で、19区にあるシテ産業科学博物館へ行く。
巨大な施設の中には、水族館やプラネタリウム、博物館などが入っているのだが、その中にある子供のための体験型テーマパーク“Cité des enfants”が今回の目当てだ。2歳から7歳が対象年齢の幼児向けエリアだけでも、1700㎡の敷地がある。5つのテーマごとの空間に分かれていて、遊ぶ中で、自分の身体や感情を発見したり、共同作業をしたり、自然界の性質を学べるようになっている。ダイナミックな水遊びやマリオネットのサーカスの操作など、どれも子どもたちの心をがっちり掴むアトラクションばかりだ。これから寒くなってくるにつれて、さらに通うことになりそうである。
 
 
[今月の花]フウセントウワタ
 

小さなトゲのついた風船のような形の実(袋果)がなんともユーモラスなフウセントウワタ(風船唐綿)。この秋は、オブジェのように実をかためて、あえてこの独特なフォルムを前面に出して主張するような表現に面白さを見出し、いろいろと試した。フウセントウワタの中には、その名の通り種と綿毛が入っていて、熟すと風船が割れて中から飛び出してくる。綿毛が散らかると掃除するのが大変ではあるのだが、その種子も美しいのでまじまじと眺めてしまう。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

text&photo: Yurika Moriya

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