LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2023.11.29

パリ12ヶ月雑記帖 “novembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らすパリの日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。今回はノエルの気配が街に満ちてきた11月のあれこれをお届けします。

11月某日。曇り時々小雨。
パリから車で北西に1時間半、Youza ecolodgeという森林の中の宿泊施設に一泊した。シンプルながら居心地の良いロッジのテラスには、ノルディックバスが床に没入するかたちでついている。昼間は森を散歩し、空まで届きそうな木々と時おり落ちてくる黄葉を眺めながら湯に浸かる。夕方のアペリティフタイムには、公共スペースの焚き火でマシュマロを焼いて食べた。夜と朝はロッジまで食事を運んでもらえて、子連れにはありがたい。
苔むした倒木の上をバランスをとりながら歩くこと、窓にずっと止まっていた大きな蜂、街灯のない敷地で夜に持ち歩くランタン、風が渡って揺れる木々の影。眠りにつく前、夜の静けさの中、それらを息子はひとつひとつ、大切に数え上げるようにして教えてくれた。

11月某日。晴れ。
早くも、ノエルのデコレーションをした店がちらほらと増えてきた。私が例年楽しみにしているBONTONの装飾は、昨年とはがらりと変わり、赤と緑を基調にしたクラシックな雰囲気で、くるみ割り人形がショーウィンドウや店内に立っている。ノエルコーナーに、サパン(クリスマスツリー)に飾るオーナメントがぎっしり並ぶのを見ると、もう必要ないとわかっていてもつい足が止まる。パティシエをしている夫もだんだん忙しさが加速しているようだし、今年ももうこの季節が来たのかと月日の過ぎるはやさに驚く。さて、ノエルには、家族に何を贈ろうか。料理好きな息子には子ども用包丁セットなんてどうだろうかなどと考え始める。

11月某日。雨時々曇り。
家の前の大通りにブロカント(蚤の市)が出ていた。古くて壊れやすいものも多く並ぶブロカントで、好奇心旺盛な息子を連れて歩くのはヒヤヒヤするのだが、最近では、私の欲しいものを一緒に探してくれたり、「ママ、これかわいいよ」などとヴィンテージのアクセサリーを選んでくれたりもするようにもなった。
突然降ってきた雨を避けて飛び込んだスタンドで、ヴィンテージの布の端切れが山積みになっていた。増えてしまったおもちゃカゴの目隠しにちょうどいいと思い、息子自身が選んだ布を買う。帰宅すると、息子はすぐに「新幹線のお布団」と言いながらそうっと丁寧にカゴにかけた。

11月某日。晴れ。
今年のCouronne de Noël(クリスマスリース)を製作するために、モンマルトルに資材を買いに行く。サクレ・クール寺院の麓には、生地問屋が集まっているエリアがあるのだ。今年はチュールやオーガンジーなどを使いたいと想像しながら行ったものの、膨大な種類と物量を目の前にして圧倒されてしまった。たっぷり時間をかけてイメージに合うものを厳選する。ちなみに、地図アプリに住所を入れ間違えて、サクレ・クールの丘の階段を久しぶりに登った。気がついた時にはすでに遅し。だが、そのおかげで、雨続きの11月にしては珍しい青空と晴れたパリの街を一望できたのでよしとしよう。

11月某日。雨。
連日雨模様のパリで、目下、我が家で流行しているアクティビティはクッキー作りだ。そうは言っても、夫に任せきりで、私はもっぱら、キッチンでたのしそうにしている男子ふたりを眺めているだけなのだが。踏み台に乗って夫と額を寄せ合い、材料を混ぜて生地を捏ね、真剣な表情で型抜きをして、オーブンの前で正座して焼きあがりを今か今かと待っている姿は微笑ましい。
無事にクッキーができあがると、息子によってそれぞれの皿に取り分けられ、誇らしげに手渡される。口に放り込んだ瞬間にほろりとほどけるクッキーは、毎回すぐに皿の上から消えてしまう。また作ってねと約束しながら、ああ、こんなにおいしいものはないなと思うのだ。

11月某日。曇り。
ランジス市場で仕入れたたくさんの針葉樹と先日買った布やリボンを使って、一点もののリースたちを作る。今年は、ファッションウィークのコレクションなどを見て印象に残っていたSimone Rocha(シモーネ・ロシャ)やCecilie Bahnsen(セシリー・バンセン)のリボン使い、そして「包まれる、包み込む」というイメージをテーマにしていた。ふと、儚いものに惹かれるのはなぜだろうと思いを辿ると、10代の頃に夢中になったソフィア・コッポラの『ヴァージン・スーサイズ』に行き着いた。背が高いことにコンプレックスを抱いて、たとえばピンク色が好きだとさえ言えなかった、自意識過剰で繊細な少女時代の自分も、その先に見つけた。
大人になるにつれて手放して忘れていたものを再構築しているような、すこし不思議な感覚で手を動かす。ポエティックでありつつモダンなオブジェとしての落とし所を、リボンの太さや色、チュールの種類、花材などを変えて試しながら探していく。

[今月の花]
アマリリス


アマリリスの花弁は光沢のあるベロアのような質感で、薄曇りの冬の街に映える高級感がある。一方で、太い茎やぼってりした花弁は重たさも感じさせるのだが、アマリリスの中でもタランチュラという品種は花弁がほっそりしているのが特徴で、長く飛び出した蕊も相まって、華やかでありながら軽やかなシルエットだ。花の奥に向かって赤く染まっているのも印象的で、引き込まれそうな色気が漂う。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

text&photo: Yurika Moriya

SHARE