LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.11.30

パリ12ヶ月雑記帖 “novembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。クリスマスの気配漂うパリ、そして足を伸ばして出かけたイギリスの様子をお届けします。

11月某日。晴れ。
子ども服のブティック「BONTON」に、今年も巨大なサパン(クリスマスツリー)がやってきた。この季節、エントランスには例年大きなサパンが飾られており、どんなデコレーションをしているかチェックするのを楽しみにしている。今年はホワイト、シルバー、ブルーを基調としたオーナメントで彩られていた。近所の「Ladurée」や「Pierre Hermé」のショーウィンドウもブルー系だったので、今年の流行なのだろうか。
サパンの足元では、大きなシロクマがスキーをしている、子ども服店らしい夢のある世界観に私も胸が躍る。店内にはおもちゃもたくさん売られていて、息子は乗用玩具の大きな自動車を欲しがっていた。今年は何をプレゼントするか、そろそろ考えはじめよう。
 

11月某日。曇り。
ついに、長い間待ちわびていたフランスの運転免許が届く。これでフランスでも車を運転することができる。大きな花仕事のときでも仕入れや搬入の苦労が減ると思うとうれしい。日本では馴染みのなかったロン・ポワン(円形交差点)だけは、できれば今後も避けて通りたいところだけれど、早くパリでの運転にも慣れたい。
東京では、車なしで花仕事をするなんて想像できないほど必要不可欠なものだと思っていたけれど、パリでは周りの人に助けてもらったり自分で工夫したりして、今まで自家用車がなくてもどうにか日々仕事を続けられてきたことに改めて感謝したい。

11月某日。晴れ。
初めてオンラインでアンティークの椅子を買った。フランスには、「Selency」という、いわば古道具専門のメルカリのようなサイトがあって、アンティークショップをはじめ個人も多く出品していて、国中のアンティークが集積している。
ひと目で気に入って購入した椅子は、出品者自らパリまで配達に来てくれた。会話を交わす中で、この椅子が大切に扱われていたものだと感じてうれしい気持ちになる。テーブルに椅子、照明と、一つずつ揃えていくのは時間がかかるけれど、その分愛着が強くなり、目にするたびに心が和む。
 

11月某日。曇り。
息子を連れて、母子二人で早朝のパリ北駅へ。ユーロスターに乗って、ロンドンへ向かう。コーヒーを飲みながら、車窓を流れていく長閑な風景を眺めて2時間。気がつけば国境を超えていた。翌日は移動予定なので、ロンドンには一泊しかしない。息子と一緒なので、予定を詰め込まず、今回ロンドンでやろうと決めていたのは息子の好きな「ダブルデッカーバス(赤い2階建てバス)」に乗ることだけ。初めて見るロンドンバスに、息子は大喜び。たった数駅分の距離も、バスや地下鉄をできるだけ多く乗り継いで、回り道した。
パリとはまた違った雰囲気のお洒落な住宅街、空も地面も葉の色に黄色く染まったハイドパーク、ノエルの大掛かりな装飾がきらびやかな「ハロッズ」……。バスの2階に登って、一番前の席からロンドンの街を走るのは大人でもワクワクする。

11月某日。曇り。
朝、友人たちとパディントン駅で合流。3時間弱列車に揺られ、トートン駅からデヴォンまで、レンタカーを借りて1時間ほど移動。イギリスで初めて運転した。最初は緊張したが、日本の車と同じ右ハンドルで、皆マナーが良く道を譲ってくれる人ばかりなので、安心感がある。窓から見える自然豊かな田園風景に癒され、気持ちの良いドライブだった。
到着した宿泊先「Secular Retreat」はいつでも風が強く吹く丘の上にあり、想像した以上に美しい場所だった。友人たちは皆国籍も様々で、会話は英語を中心に、フランス語、中国語、少し日本語と、4カ国語が入り混じる中、キッチンで一緒に料理をしながらそれぞれの国の食文化について教え合ったり、近くのファームハウスへ野菜を買いに行ったりと楽しい。息子は人見知りもせず皆に甘えて、たくさん遊んでもらってご満悦だった。
 

11月某日。曇り。
ブルターニュ通りで年に2回開かれる、パリ最大規模の蚤の市。毎年通い続けているイベントだ。スタンドを1軒ずつじっくり見ようと思えば、ゆうに半日はかかるほど広い。今年もぐるぐる歩き回って、帽子スタンドや1950年代のパニエ(籠)、19世紀のアンティークブラウス、花器や水差しなど、たくさんの収穫を抱えて帰路についた。帰りがけに、セレクトショップ「merci」の軒先に、ノエルの特設ブースができているのを見つける。そういえば、この1週間のうちにどの花屋にもサパンが並ぶようになった。我が家も、今年のサパンを来週買いに行こう。
 

 
 
【今月の花】

 

 
菊の花は、フランスでは「Chrysanthème(クリザンテーム)」と呼ばれる。フランスでは11月1日が「Toussaint(トゥーサン)」というキリスト教の祝日になっている。日本語では「諸聖人の日」「万聖節」とも言われる日だが、この日は、日本のお盆のようにお墓参りをして、菊の花を供える慣習がある。日本で生まれ育った私にとっても、今まで菊は母国を象徴する花でありながら、同時に仏花によく使われる花という認識があった。
ところが最近、そんなイメージを払拭するほど菊がかわいい。聞いたところによれば近年菊に力を入れている生産者がいるのだそうで、色も形もデコラティブで華やかな菊が出回るようになった。今や、パリの人気フローリストたちもこぞって使う花だ。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

text&photo: Yurika Moriya

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