LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2021.11.25

パリ12ヶ月雑記帖 “novembre” −守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、1歳の息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。連載第1回は、秋が終わりノエルの気配が漂い始めるパリの様子が届きました。

11月某日。曇り。
火曜日なので、マルシェに行く。いつもの八百屋さんで、朝のサラダ用にイチヂクを買おうと思ったのだけれど、見当たらない。数日前に大雨が降ってからというもの、パリはぐっと冷え込むようになった。秋が終わり、長い冬に突入したのだ。
イチヂクの代わりに、りんご農家さんのスタンドに、洋梨がまるまると美味しそうに並んでいたので、りんごと洋梨を買う。洋梨に合わせて、チーズもロクフォール(ブルーチーズ)にした。今日からサラダも冬仕様。

11月某日。曇り時々雨。
夕方、近所の自然派スーパーに立ち寄ると、季節限定のハーブティーを発見。ノエル仕様の、温かみのある色合いのパッケージが可愛らしく、つい手を伸ばしてよく見たところ、なんと2020年版、つまり昨年のノエル限定商品だった。さすがフランスと呆れながらも、この国の、こういう「ゆるさ」が好きだったりもする。

11月某日。晴れ。
息子を連れて、パレ・ロワイヤルを散歩。パリの晩秋は、黄色く染まる街路樹の下を歩くだけでも幸せで、何度も空を見上げてしまう。1歳5ヶ月になる息子は、ここのダニエル・ビュランのオブジェのある中庭が大好きで、ストライプの円柱のオブジェを一生懸命に昇り降りしては、誇らしげにこちらを振り向く。
6月に来たときには確か、まだ息子は歩くか歩かないかといったところで、この中庭を高速ハイハイで疾走していたはず。見える景色も世界との触れ合い方も、日々変わって行くのだと思うと感慨深い。

11月某日。曇り。
パティシエをしている夫が、今年初のモンブラン、しかもホールケーキを持って帰ってきてくれたので、喜び舞いながら思う存分食べた。風味豊かなマロンと、カシスの酸味、サクサクのメレンゲのバランスが最高。
それにしても、今年もあっという間にこの季節が巡ってきた。夫の仕事柄、12月のノエルと1月のガレット・デ・ロワの時期はほとんど家に帰ってこられないほどの繁忙期。フランスでは、ノエルから年末にかけてのバカンスは家族で過ごすのが一般的だけれど、我が家はバカンスどころではなく、11月に入ってノエルの足音が聞こえるようになってくると、高揚感よりも先に、今年も体調を崩さず走り抜けられるのか……という緊張感が漂ってくるのである。
そうは言っても、今年は、家族が三人に増えてから初めてパリで過ごすノエルだから、我が家も小さなサパン(もみの木)を買ったり、クロンヌ(リース)を作ったりして迎えたいと思う。もちろん、夫の作るビュッシュ・ド・ノエルも欠かせない。

11月某日。曇り時々雨。
ついにカシミアのセーターに袖を通す。太陽の昇る時間も日毎に遅くなり、朝、息子を保育園に送り届けるときにはまだ街が目覚めきっていない感じがする。
保育園で、“Café chausettes(カフェ ショセット)”のお誘いの手紙をもらった。読んでみると、今月末に定年退職される園長先生のお別れ会のようなものだそう。初めて聞いた言い方だけれど、“chausettes”が靴下という意味だから、「靴を脱いで、くつろいだ雰囲気で」といったニュアンスなのかなと一人で納得した。土曜日の午前中、各家族がちょっとしたスイーツを持ち寄って和やかな時間を過ごしましょうと書いてある。また、園からの手紙とは別に、ある子どもの両親から、「園長先生にプレゼントを贈ろうと思うのですが、同じ考えの方がいたら共同でいかがですか」という呼びかけの手紙ももらった。フランスには、いわゆる「ママ友コミュニティ」は存在しないと聞いていたけれど、こういった親同士の交流を経験するのも初めてで、楽しみ。

11月某日。晴れ。
久しぶりの清々しい快晴。この時期に突然訪れる暖かな晴れの日を、フランスでは「インディアン・サマー」と呼ぶ。日中、セーターにレザージャケットを羽織って出歩いていたら、うっすらと汗ばんだほど。
保育園の親たちのプレゼント募金に参加するのと同時に、個人的にも園長先生へ感謝の気持ちをカードに綴ろうと思い、美しいカードを探しにAstier de Villatteへ立ち寄った。カードはピンとくるものがなかったものの、店内を埋め尽くさんばかりに陳列されたノエルのオーナメントの数々に目を奪われた。次の予定があり時間が足りなかったので、近日中にゆっくり再訪するつもり。まだどこか霧の向こうにあるように感じていたノエルが、一気にくっきりとした輪郭をもち、現実味を帯びてきた。

[今月の花]

深い色の秋色あじさいや豊潤な香りをたたえた秋ばらが次第に終わりを迎え、アネモネやチューリップといった冬の花たちが出始める、まさに秋の終わりと冬の始まりを感じる季節。パリ郊外にある、大好きなシェライユの花農家からは、今年最後のあじさいと、色づいた葉や枝ものたちが届く。花も葉も、ため息がもれるほど表情豊かで美しい。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

SHARE