LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2023.12.27

パリ12ヶ月雑記帖 “décembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。日本とフランスを行き来し慌ただしくも美しい12月の様子をお届けします。

12月某日。曇り。
定期装花をしているパリのセレクトショップ、Rendez-vous storeの店舗装飾。2名のアシスタントと協力して、店をノエル仕様へと変身させた。ショーウィンドウにもみの木のガーランドや枝をあしらい、ドアにリースを飾り、店の中央には大きな苔木と針葉樹を活けて、オーナメントを飾る。
寒空の下、針葉樹やワイヤーを使って作業していると、あっという間に手が傷だらけになってしまう。申し訳なく思ってアシスタントたちを見るのだが、彼女たちは、目を輝かせながら楽しい楽しいと言ってくれるので、ありがたい。作業終了後、その足で幼稚園に息子を迎えに走ればもう、閉園ギリギリの時間だ。駆け寄ってくる息子を抱きしめると、腕の中の小さな温もりに疲れも忘れて満たされる。

12月某日。晴れ。
半年ぶりに、東京に帰ってきた。仕事の予定を詰め込んでしまっていたのだが、すきま時間を見つけては、日本の作家ものの花器を探している。
夜、友人が勧めてくれた青山一丁目のAtelier MOを訪れた。オーナーによってセレクトされた器やオブジェなどの美しいことはもちろん、空間を贅沢に使っていて、余白までもが展示の一部のようだ。そこで出会った、中根学さんの器に一目惚れして買い求めた。
先日は、数年かけて少しずつ収集している熊谷峻さんのガラス花器も、八丁堀のpragmataから新たに我が家へと迎え入れた。パリでの花仕事にも、どんどん日本の花器を使ってゆきたいのだが、問題は、どうやってこの割れ物たちを持って帰るかである。悩ましいところだ。

12月某日。快晴。
コートもいらないほどの、12月とは思えぬ陽気の週末。息子を連れて神奈川県の「こどもの国」へ行ってきた。息子がフランスで牧場を気に入っていたのを知った私の両親が、事前に調べておいてくれたのだ。こどもの国の広い敷地には、牧場のほかにも遊具場、ピクニック広場があり、多くの人々が休日をたのしんでいた。
この牧場では、小さなこどもも乗馬体験ができる。まずは私が息子と一緒にポニーに乗り、場内を一周した後、息子は勇気を出して、一人で乗ることに。飼育員さんに手綱を引かれながら、ゆっくりと場内をポニーに揺られて闊歩する彼の表情はとても誇らしげで、笑顔が弾けていた。
一方、モルモットやウサギを触ることができる「ふれあい広場」では、今まで見てきたなかでもいちばん優しい顔をして、そうっとそうっと、何よりも、大好きなおもちゃよりも大切に、小さな声で話しかけながら小動物を撫でていた。
私の見たことのない息子の表情を、いくつも発見した一日。自分よりもちいさなものを慈しむ心、命あるものの重みやぬくもりを忘れずに、心身すこやかに育んでいってほしいと願う。

12月某日。晴れ。
NHK「あさイチ」という番組内のグリーンコーナーに、ありがたいことに今年2度目の出演をした。15分間のコーナーなのだが、限られた時間で、自分が日々感じているパリの花の魅力をいかに広くわかりやすく正しく伝えることができるのかを考えると、単語のひとつひとつにも悩んでしまう。しかし制作スタッフの方々に導かれながら、いつも向き合っている花について新しい切り口で、より深く捉え直すことができる機会でもある。秒単位で仕事をしているプロのスタッフの方々にも、刺激を受ける。

12月某日。晴れ。
清澄公園を散歩すると、まだ紅葉が残っていた。朱の葉から青空が透けているのを見上げたまま歩いている私の前を、息子は、降り積もる落ち葉をかき分け突進してゆく。お芋でも焼けそうなぐらい落ち葉が山になっているところで、それぞれ、とっておきの葉を一枚ずつ選んでプレゼントし合う。清澄白河界隈は近年すっかりコーヒーの街だと聞いてはいたが、本当に街中いたるところにカフェが増えていて驚く。それでも、家々の並びや、ふとした人とのやりとりなどに下町風情も感じられるのが、私の好きなところだ。ぶらりとカフェに立ち寄りテイクアウトして、散歩を続けた。

12月某日。晴れ。
今年最後の撮影の仕事を終えた。急いで帰宅し、撮影で使った花を仕分けし、梱包して、その日のうちに発送する。どこへかというと、送り先は、能登にある和紙の工房である。
普段、撮影で使った花や余った花は、チームの皆にお裾分けして楽しんでもらうことが多いのだが、それでもロスフラワー(廃棄花)は生じてしまう。そこで私が2年前から細々と行なっているのが、能登の紙漉き工房にロスフラワーを送り、「野集紙」と呼ばれる、花を漉き込んだ和紙を製作してもらうという個人プロジェクトである。その紙を使って名刺やノートを作ったりして、単に花を再利用するというだけではない、新たな価値を生み出したいと思っている。今回は、春めいた明るい花たちを野集紙にしてもらう予定だ。どんなものが仕上がってくるだろう。花と紙で紡ぐ、職人さんとの文通のようで、年明けに届くのを心待ちにしている。

[今月の花]パフィオ

フランスでは、冬になると花市場にパフィオが多く並ぶ。日本の市場で見る洋蘭よりも丈が長く、大ぶりで、アレンジメントにも使いやすい。見ているうちに溶けてしまいそうな色のグラデーションが好きで、パフィオだけで束ねたり、アクセントとして差し込んだり、つい多用してしまう。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

Test&Photograph: Yurika Moriya

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