おいしいおはなし第42回『はれときどきぶた』えんぷつの天ぷら

 小さい頃、えんぴつをかじる癖がありました。かじってはいたものの、えんぴつは実においしくありませんでした。そんな体験もあって、私に強烈なインパクトを残したおはなしの中の食べ物が、『はれときどきぶた』のえんぴつの天ぷらです。家族の食卓に母さんが嬉々としてえんぴつの天ぷらを出すシーン。それを父さんが「うまいうまい」とばくばく食べる様子を読みながら、私は「うへー!」と顔をしかめていたはずです。だってそれ、絶対まずいもの!
 そもそも、なんで食卓にえんぴつの天ぷらが登場するのか。この『はれときどきぶた』は、主人公の畠山則安(小3)が、母さんに日記を盗み読みされたことに腹を立て、読んだらびっくりするようなデタラメな日記を書くことにしたら、書いたことが現実に起きてしまうというおはなし。母さんをギャフンと言わせたいけれど、大事な日記にうそは書きたくない則安が考えたのが、“あしたの日記”です。「これから先のことを書くのだから、なにを書いても、うそときまったわけじゃない」(14頁)。そう考えた則安が、あしたの日記に「夕飯はえんぴつの天ぷらでした」と書いたことが、翌日現実になってしまったというわけなのです。

 おはなしの始まりに母さんに日記を読まれて恥ずかしく悔しい思いをするところは、当時やはり密かに日記を書いていた小学生の私にはとてもリアルで、則安に深い同情と共感を抱きながら読み始め、則安が日記にどんなデタラメを書くかワクワクしながらページをめくりました。
 そして登場したのがえんぴつの天ぷらです。則安が日記に書いたとおりに、当たり前のように母さんが出したえんぴつの天ぷらにはじめは驚いていた妹の玉ちゃんも、父さんの食べる様子を見て手を伸ばしますが、則安に「だめっ!」と言われて泣き出します。何が起きているのか分からず気味悪く感じた則安はたまごごはんだけで夕食をすませるのですが、そのうち父さんのお腹が痛くなって……日記には書いていない事態に則安はパニック。しかしそんな状況を母さんは余裕で解決。改めて読み返したらその解決法に「なるほど、さすが母さん」と感心しました。そんなふうに則安の考えたばかばかしい出来事が現実になった時に、母さんと父さん(主に母さん)が冷静に対処する姿が、このおはなしの面白さでもあります。
 この天ぷら騒動の後、何気ないデタラメからから始まった日記はエスカレート。則安は頭をひねって絶対ありえないことを考えます。そして書き上げたのが「はれときどきぶた」というあしたの日記。ばかばかしさ全開の力作を書き上げた則安、今度こそ両親をぎゃふんと言わせられるのか! そして日記に書いたことは本当に起きるのか!?
 あとがきに、作者の矢玉四郎さんがこう言っています。「ばかなことを考えるのは、あんがいむつかしいことなんだ。それに、ばかなことを百くらい考えていると、そのうちにひとつくらいは、すばらしいことを考えだせるだろう」(79頁)。本当にそのとおりです。特に、大人になってからはなんでも正しいことを求めたり効率的に物事を進めることばかりを考えて、頭がずいぶん固くなってしまいました。大人こそ則安のようにあしたの日記を書いて、いろんなデタラメやばかばかしいことをもう一度考える練習をした方がいいのかも。
 さて、頭の固い大人になったあるとき、居酒屋のメニューに、ゴボウの天ぷらというものを見つけました。香ばしくてほくほく、これはおいしい! と、以来好物のメニューとなったのですが、ある時に食べていてふと思いました。「この細長い棒状の天ぷらってなんか知ってる……あっ!」と、頭にポンと浮かんだのは、このえんぴつの天ぷらでした。

〔材料〕

【2〜3人分】
ごぼう 2本(約200g)
水 200㎖
しょうゆ 大さじ1
みりん 大さじ1
◎衣
 薄力粉 大さじ3
 片栗粉 大さじ3
 水 60㎖
揚げ油 適量

〔つくり方〕
  • 煮る。
    ごぼうは包丁の背で皮をこそげ落とし、10cmくらいの長さに切り、水にさらす(太いところはえんぴつよりやや細め=5~6mmくらいに割る)。
    鍋にごぼうとごぼうがひたひたにかぶるくらいの水(分量外)を入れて中火にかけ、二度茹でこぼす。
    鍋に分量の水、しょうゆ、みりんを加えて弱火にかけ、15分ほど煮る。火を止め、冷ましながら味をなじませる。
  • 衣を作る。
    ボウルに薄力粉と片栗粉、水を入れて泡立て器でなめらかになるまで混ぜる。
  • 揚げる。
    ①のごぼうはざるにあけ、汁けを切る。
    揚げ油を中火にかける。②の衣を落として2秒ほどで浮き上がるようになったら、ごぼうを1本ずつ衣にくぐらせて、2分ほど揚げて、取り出す。
    火を少し強めて油の温度を上げ、落とした衣がすっと上がってくるくらいになったら、再度ごぼうを油に入れ、1分ほど揚げてからりと仕上げる。
    器に盛って完成!

下味がついているのでそのままでもじゅうぶんおいしいですが、お好みでレモンを添えたり、大人のおつまみには粉山椒をふったりするのも、おすすめです。

『はれときどきぶた』
矢玉四郎 作・絵
主人公は小学3年生の畠山則安。2年生の時から日記を毎日つけている。「日記というのは人に見せるものじゃない。だからほんとうのことを書きなさい。失敗したことも間違ったことも」という先生の言葉のとおりに、起きたことを起きたままに。ところがそんな大事な日記を母さんが盗み読みしていることがわかって、則安は恥ずかしくて悔しくて「もう日記にほんとうのことなんて書けない!」と、デタラメなことを書く“あしたの日記”を始める。すると不思議なことに、書いたことが翌日に起きるようになって……。則安の“あしたの日記”はどこへたどりつくのか!?

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子