LIFESTYLEInterviews2026.05.20

Dinomir, the idol of children

子どもたちの人気者、ディノミール

大きなお顔にどこかとぼけた表情のディノミール。その下には、児童書を愛する人物の顔が隠されている。毎週日曜セーヌ河畔で、忘れられた本の主人公たちをよみがえらせているマリー・ボニソー。その奔放な想像力とレトロな感性が児童文学に新たな息吹を吹き込む。

「昔々、あるところに若い女がおりました。その女は児童文学に夢中になり、古本屋を開くことにしました……」
この女店主が生んだ分身が“ディノミール”だ。毎週日曜、大きな顔の奇妙な人物がセーヌ川沿いを練り歩き、子どもたちを楽しませている。

古い児童書の世界を子どもたちに開く店

 パリ在住のジャーナリストでTV局アルテの番組『28ミニッツ』でコーナーを担当するマリー・ボニソー。まさか彼女がブキニスト(古本屋)になるとは誰も予想していなかった。この道を選ぶきっかけとなったのは、数々の素晴らしい出会いと友人たちとの友情だ。そのうちの一人がイラストレーターのタマヤ・サペイ=トリオンフ。2023年、彼女が古本屋フェスティバル「パナム・ブキーヌ」のポスターを手がけたことから、マリーはフェスティバルに足を運んだ。
「そこで見た古本のあり方がとても気に入って、夢中になりました」
そこから、小説家で古本屋を営むカミーユ・グドーから店を開くためのノウハウを教わる。編集者のクリスティアン・ブリュエルからは、児童書の歴史を教わった。
「そして、パリ市に出店を申し込みました。毎年、店じまいをしたセーヌ川沿いのブキニストの跡を継ぐ候補者が募集されます。コロナ禍の影響で人出が減り、観光客が減少したことを逆手に取ろうと思いました」
 2024年、マリーはトゥルネル河岸に並ぶ箱型のブキニストの列に、念願の自分の箱を手に入れた。今は通りすがりの人々とやりとりをする楽しさを感じている。
「店を始めたおかげで人との出会いがあり、交流が生まれています。ジャーナリストとして駆け出しだった頃、毎日のように街頭インタビューに出ていたことを思い出します」
 古本と絵葉書とエッフェル塔のキーホルダーだけを扱うブキニストが多いなか、児童書に特化した彼女の店は異彩を放っている。
「コレクターか観光客相手の、ありきたりな商売はやりたくありません」
 なかには児童書に絞らずに、もっと広い顧客を対象にした方がいいと助言する人もいる。だがマリーは一度決めたら譲らない性格だ。扱うのは子ども向けの本のみ。2 ~ 6ユーロというかなりの安価で販売し、豪華な本であっても30ユーロが上限。この設定を変えるつもりはないという。

 さらに、店名「ディノミール」のキャラクターも生みだした。ヴィジュアルのアイデアはアーティストのカロリーヌ・ショヴロによるもの。カロリーヌがしまい込んでいた発泡スチロールと樹脂でできた大きな頭を引っ張り出し、新たな命を吹き込んだ。名前こそ1970年代に人気を博した児童書に登場するやさしい巨人・ディノミールをオマージュしているが、その顔は制作者カロリーヌにそっくり。というのも、この大きな顔はカロリーヌ自身をモデルに制作したもの。新たにディノミールとして、マリーの店を訪れる子どもたちの記憶に残ってくれるとうれしい、とカロリーヌは話す。

児童書に描かれるのは人生に立ち向かうためのヒント

 マリーが児童書のみを扱う理由のひとつに、読み聞かせがとても上手だった祖母の思い出がある。
「本の世界にどっぷり浸かってもらうには、おはなしを聞かせるのが上手な人がいればいいんです」
 読み聞かせは総合芸術だとマリーは言う。文章と絵が呼応し、人の声で語られることで、聞き手は想像の海へと漕ぎだしていく。また、児童書にこだわるもうひとつの理由が、児童文学は格下だという固定観念を払拭したいからだ。
「2019年にフランス国立図書館が主催した展覧会『子どもたちを読みっぱなしにさせるな!論争、子ども向けの本』に行きました。そこで出会った1960年代から70年代の児童書は、聞き分けの良い子を育てるような説教くさいおはなしではなく、子どもたちを解放する素晴らしい内容でした」

 商品を仕入れるため、マリーは古道具屋、コミュニティセンター、ガレージセールをくまなく探し回る。秘密の仕入れ先については明かしてくれなかった。今では児童書についてはかなりの博識だ。有名どころでは、ロアルド・ダール※1、クロード・ポンティ※2、ヴォルフ・エールブルッフ※3らの作品のほか、イラストレーターのニコル・クラブルー翻案・絵の『人魚姫』など、珠玉の作品を厳選して取り扱う。この『人魚姫』の新解釈版は、最後には人魚が海に帰り、声を取り戻す(みんなが願っていた結末だろう)というフェミニスト的なお話だ。1976年に出版されたイタリアのアデラ・テュランとネッラ・ボスニアの『Clémentine s’en va…(クレモンティーヌは旅立った)』では、ある日、メスのカメのクレモンティーヌが、息が詰まるような夫ガメとの暮らしを捨てて旅立つ。こうした児童文学を通して、マリーは「先入
観や偏見をぶち壊したい」とまるでいたずらっ子のように語る。
「私の狙いは、心の奥で何かをためらっている人にこうした本を見つけてもらうこと。ある日、人気シリーズの絵本を買いに来た年配の女性がいました。でもうちでは取り扱っていませんでした。主人公の描かれ方、つまりいつもパンツが見えていて将来の良き妻の予備軍みたいな感じがどうも受けつけなくて。その代わりにと、明るく元気な女の子が登場する一冊をすすめました」

 また、インタビューの最中にはこんなことがあった。ある母親が先週末に息子に買ってあげた本を交換しに来た。結末に突然の犬の死が描かれていたからだ。子どもを現実のつらさから守りたいと思う典型的な親の反応だろう。だがマリーは本の役割についてこう語る。
「本は自分の感情とどう向き合い、付き合っていくかを教えてくれます。人生に立ち向かうためのヒントが詰まっているんです」

大きな顔にマニキュアの指先、無邪気にユーモアを持ち続けて

マリーは子どもの頃、『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』(ガブリエル・バンサン作)に心を奪われた。伝統的な家族の形態ではなく、自分で家族を選んで作っていくおはなしは、血のつながりではない共同体について考えるきっかけになったという。また、スーザン・バーレイ作の『わすれられないおくりもの』を再び手にした時には、過去の思いがよみがえった。
「年老いたアナグマと森に住む動物たちとのお別れの話です。動物たちはアナグマがさまざまな知恵を残し、家族を超えた絆の大切さを教えてくれていたことに気づきます」

絆といえば、大きな顔のディノミールも友人たちとの絆をつなぐ存在だ。2025年の9月21日には、この店で『Les ours blancs ne perdent pas le nord (北を見失わないホッキョクグマ)』のサイン会が行われた。作家でありジャーナリストのリシャール・ゲテが資本主義社会を問い直した作品だ。マリーとは古いつき合いだという。そして、その場を盛り上げたのが大きな顔のディノミールだ。
「ディノミールが登場すると、子どもたちは大喜びでした。その日は彼女の友人が被っていたのですが、爪にはばっちりマニキュアが塗ってあって。そのちぐはぐ具合がとても痛快でした」
と作者のリシャールは思い返す。愉快な仲間たちによるくじ引きも開催。マリーは集まった60人ほどの人々の真ん中でメガホンを手にイベントを盛り上げる。くじの景品として、クマ柄のサンダル、クマの形をした砂糖菓子ギモーヴ、『シチリアを征服したクマ王国の物語』(ディーノ・ブッツァーティ作)など思いがけないプレゼントが雨あられと降り注いだ。
「マリーは創造力にあふれ、どこまでも追求し、いろいろと考えを巡らせるタイプ。彼女と一緒にいると、いつだって子ども心を忘れないでいられます。シニカルすぎるこの世の中で、無邪気さやばかばかしさ、ユーモアを持ち続けるのは素晴らしいことです」(リシャール)

何といっても彼女は気さくな人物。日曜にぜひ「ディノミール」に立ち寄ってみて。素敵な笑顔とコーヒーが待っているから。

Instagram : @dinomir______

※1 イギリスの児童文学作家。『マチルダは小さな大天才』(評論社)ほか
※2 フランスの絵本作家。『ペトロニーユと120ぴきのこどもたち』(福音館書店)ほか
※3 ドイツのイラストレーター。『うんちをしたのはだれよ!』(偕成社)ほか

Text: Déborah Malet
Photograph: Oliver Fritze
Translation: Kumi Hoshika

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