6月某日。晴れ。
息子が2歳の誕生日を迎えた。昨年に続き、夫がバースデーケーキを担当。マカロンとダッコワーズの間のようなお菓子「マロニー」でタワーを作ってくれた。ちなみに、キャラメルがけしたシューを積み上げたクロカンブッシュや、マカロンを積み上げるマカロンタワーなど、このピラミッドの形のケーキは、フランスのウェディングやパーティーで定番でもある。
誕生日にはいつも、息子が生まれてきた日のことを語り合う。予定日を過ぎてもなかなか生まれてこなかったこと、息子の顔を見た夫が先に号泣したので、私の涙は引っ込んでしまったことなどを一つ一つ思い出して、笑う。この世に生まれたばかりのふにゃふにゃの小さな生命体は、私が思っていたよりもずっと力強く、そしてこれまでの人生で抱いたものの中で最も尊いものだった。月並みだけれど、彼が元気で笑顔でいてくれればそれだけで幸せだと夫婦で言い合う。
6月某日。晴れ。
東京から私の家族が来ていたので、皆で少し遠出して、Moret-sur-Loingへ出掛ける。印象派の画家シスレーが晩年を過ごした地として有名な村だ。とても小さな村で、駅から村の中心に流れる河川までは早足で歩けば20分程度の距離だけれど、住宅街のよく手入れされた庭々を眺め、このあたりに住むとしたらこの家がいいなどと妄想しながら歩いたり、何より息子が道端の猫、工事車両、公園、消防署(消防車)などにいちいち引っかかって寄り道ばかりするものだから、この「モレの橋」に辿り着くまでに、ゆうに1時間半はかかった。
暑い日だったので、川に素足をつけて涼む。皆で河岸に横一列に並んで座り、持参したおにぎりを頬張って、ただのんびりと過ごした。鴨の家族も仲良く列をなして泳いでいて、ホワホワの毛の赤ちゃん鴨が可愛かった。
6月某日。快晴。
息子の保育園の友達の2歳の誕生日会に招待された。この季節は気候が良いので、会は大抵、公園でピクニック形式で行われることが多い。フランスでは日本よりも子供の誕生日会に力を入れる家庭が多く、子供たちのためにアクティビティを用意したり、お土産を持たせたりと準備も大変そうである。私も昔、友人のお嬢さんの誕生日会のアクティビティとして、花のワークショップを頼まれたことがある。
招待してくれた息子の友達の母親はイギリス人で、園で会うといつも英語とフランス語を交えてにこやかに話しかけてくれ、とても好きだったのだが、9月から父親の出身地であるマルセイユに引っ越してしまうのだという。寂しい別れではあるけれど、これからも連絡を取り合おうと約束する。
6月某日。晴れ。
3年近く住んだアパルトマンから引っ越し。下町っぽくて気取らないけれど、センスの良い店や人に囲まれた11区界隈が大好きで、独身の頃から気がつけばほとんど11区のどこかに住んでいた。今回も、3区に住所は変わるものの、息子の保育園を始め、だいたい同じ生活圏内で引っ越した。しかしながら、いざ住んでいた家を去るとなると、様々な思い出もあり、名残惜しくなるものだ。結婚してすぐに暮らし始めた、大通りに面して、日当たりの良い家だった。息子は窓にぴったりと張り付いて、目の前を通る車たちをずっと観察するのが日課だった。
新しい家は、中庭があるところが気に入っている。ここでまた、家族の、そして私自身の時間を積み重ね、人生の物語を紡いでいけたらと思う。
6月某日。快晴。
家族がもうすぐ帰国してしまうので、息子の保育園を1日だけ休ませて、皆で画家モネの庭があるGivernyに行くことにした。パリのSaint-Lazare駅から、鉄道で1時間半ぐらいの距離だ。何度も行ったことがあるけれど、今回はモネの家のインテリアの可愛さ、特にランプやカーテンのタッセル、オブジェなどのディテールに目がいき、改めて心動かされた。季節ごとに表情を変える庭の花たちや睡蓮の池も、毎回飽きることなくずっと見ていられる。
6月某日。曇り。
メンズファッションウィークが始まった。今シーズンから本格的に人が戻り始め、街は活気に満ちている。パリでは東京よりものんびりしたペースで暮らしているけれど、ありがたいことに毎回ファッションウィークだけは連日忙しい。装花や撮影の仕事をご依頼いただいたり、ショーにご招待いただいたりして、世界から集まるクリエイターたちからたくさんの刺激を受けている。息子を見ていてくれたり、仕事を支えてくれる家族にも、感謝。
6月某日。曇り。
とあるジュエリーブランドの撮影で、今日は4時起き。撮影場所はモンマルトルのアパルトマンの屋根裏部屋で、6階(日本式でいう7階)。坂の多いモンマルトルの街並みを見下ろす、大きな窓からの眺めが気持ち良い。まだ観光客もいない早朝、静かな街は新鮮に感じた。猛暑が落ち着き、光も柔らかくて、まさに撮影日和。美しい作品になりそうで、仕上がりが今から楽しみだ。
[今月の花]スモークツリー
パリのブーローニュの森付近にあるバガテル公園。この季節はバラ園が有名だが、途中に出会ったスモークツリーの大木に心を奪われた。スモークツリーを飾るときには、あえてピリッとした花を合わせたり、動きのあるものを雲間からひゅるりと覗かせるのが面白い。どんなに個性の強い花たちも、不思議とまとめてくれる。また、この形状のままドライフラワーになるので、長く楽しむことができる。
守屋百合香
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris