7月某日。晴れ。
長い一日。深夜起床、ウェディングブーケ制作をして、早朝、息子と一緒にタクシーで8区のシャンゼリゼまでお届け。その後、保育園に息子を送り届けたら、急いで帰って準備をし、今度は18区のスタジオへ向かう。ロサンゼルスのブランドの撮影で、現場では英語とフランス語が飛び交い、みんなでアイデアを出し合いながらどんどん画が変わっていくのが面白かった。
予定時間ギリギリで花のパートがすべて終了し、息子のお迎えに直行。家のことはまったく追いついていないけれど、目を瞑って、ひとまず無事にスケジュールを終えられたことに胸を撫で下ろす。ベッドに入る前、ブーケをお届けした新婦様からも撮影チームからもうれしいメールをいただいて、またほっと一息。これで忙しさもひと段落。今月はバカンスに向けて、パリの街とともに、徐々にゆったりモードになっていくだろう。
7月某日。晴れ。
暑い朝には、さっぱりと爽やかで、元気の出るサラダを食べたくなる。いつものサラダに飽きたので、本棚にあるレシピブックから、ひよこ豆とハーブのサラダを試してみた。ひよこ豆、細かく刻んだミント、コリアンダー、アンディーヴ、ザクロ、玉ねぎを混ぜたサラダを、オリーブオイルと塩胡椒だけでいただく。
自分の発想の引き出しにはない食材が並んだ調理台を見ているだけでも、脳が刺激されてワクワクする。冷蔵庫にあったりんごを足してアレンジしてもおいしく、酸味とハーブの香りがアクセントになり、ボウルいっぱいに食べられる。夏の定番メニューに仲間入りだ。
7月某日。曇り。
長年の友人とランチ。おもむろに、「人生の目標、幸せはなんだと思う?」と質問され、面食らった。日本では、そういった質問をされる機会は少ない。彼女曰く、年齢を重ねてきて、周りの友人たちから人生相談を受けることが増え、人の感じる幸せの価値観は本当に人それぞれなのだとわかったという。
人生をいかに楽しむかを常に考えているフランス人に囲まれて生活していると、人生とは遠くぼんやりとした概念ではなく、今、まさにこの日々とその延長線上のことであると実感する。幸せとは、とてもシンプルに、大切なものを大切にできることだと感じる。
7月某日。快晴。
イタリア・フィレンツェに、二泊三日の小旅行に来た。ここ数年ずっと訪れたかった場所、「numeroventi」は、フィレンツェにあるアーティストレジデンス兼ホテルである。フレスコ画が描かれた高い天井など古くからのしつらえが残る建築に、コンテンポラリーアート、デザイン家具が織りなす空間は、夢のようでありながらも居心地が良い“ホーム”で、ほとんどの時間を施設内で過ごした。
外の気温は39度で、少し出歩く度にジェラート屋に吸い寄せられ、日に三度は食べてしまう。太陽が眩しすぎて時には目を開けられないほどだったが、歴史的な街並みと色合いは印象深く、また帰ってきたいと思う街だった。
7月某日。晴れ。
息子の保育園が夏休みに入ったので、仕入れも打ち合わせも仕事現場も、どこにでも連れて歩いている。もちろん大変な面もあるけれど、ぎゅっと握る小さな手が、心を柔らかく、強くしてくれる、頼もしい存在でもある。そして、子連れを誰もが当たり前のように歓迎してくれる労働環境に感謝。
仕事を終えて近所の図書館へ向かう途中、息子が抱っこのまま眠ってしまい、隣に新しくオープンしたカフェ「RECTO VERSO」に寄る。開け放たれた窓辺でカフェラテを飲みながら、膝の上に乗った息子の頭をじっと眺める。窓からの太陽が息子の肌を照らし、桃のような産毛がきらきら光るようすに心を奪われる。火照った頬の赤みや、汗でくるんと巻いた癖っ毛、そのひとつひとつに、きっとすぐに通り過ぎていくであろう3歳という時間のかけがえのなさを思う。
7月某日。晴れときどき小雨。
数日前、ジェーン・バーキンの訃報に接し、言葉を失う。4年前にアンナ・カリーナが亡くなったときも衝撃だったのだが、10代後半でヌーベル・ヴァーグをはじめとするフランス映画に出会ってからずっと、彼女たちの存在は、フランスへの憧れを募らせた中高生時代、青春そのものであった。また、私がパリで研修していたフローリストにもジェーンは訪れていたそうで、包装はいらないわと、花を薄紙のみでサラリと包んで行ったという、気さくで飾らない彼女の内面が窺えるエピソードも聞いていた。
そんな中、ジェーン・バーキンの葬儀へ贈る花の依頼を受けた。親交の深かった方々の心の痛みは想像することもできないけれど、彼らの想いがいつまでも寄り添うよう、旅路を見送る花を束ねて1区の教会へ届けた。
【今月の花】カラー
エレガントで色気のある苞にすっとした茎。カラーはいつでも魅力的な花の一つだが、最近は特に、色合わせはモノトーンやブラウンでシックに、そして形の面白さをより活かして使うのが気に入っている。白のカラーに、白のアリウム、ガーリックを合わせたり、黒に近い葉を合わせたり。コリアンダーやグラミネ(穂)といった、野趣溢れる花材と合わせて軽やかさをプラスすると、雰囲気が和らぎ、空間にも馴染みやすい。
守屋百合香
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris
text&photographs: Yurika Moriya