LIBRARYパリ12ヶ月雑記帖2022.12.23

パリ12ヶ月雑記帖 “décembre” —守屋百合香

パリと東京を行き来しながら活動するフラワースタイリストの守屋百合香さんが、小さな息子とパティシエの夫と暮らしているその日々を綴る「パリ12カ月雑記帖」。指折り数えるクリスマス、寒い冬の楽しみ、冬を彩る花々。守屋さんが心に留めた美しく愛おしい日々をお届けします。

12月某日。晴れ。
アドヴェントカレンダーをめくりはじめる。今年はYOGI TEAが出しているカレンダーにした。毎日違う種類のティーバッグが出てくるので、親も楽しめる。
予想通り、息子は一日一枚だけでは物足りず、もっとめくりたいと懇願されるも、カレンダーの仕組みを説明して、なんとか理解してもらう。しかし、取り出したティーバッグを宝物のように大切に持ち歩くので、なかなか飲むことができない。

12月某日。晴れ。
我が家のラクレット解禁日。寒い日、無性に恋しくなる料理のひとつだ。実は結婚祝いで卓上ラクレットグリルをいただいていたのだが、数年間眠っていて、昨年から使い始めた。各自、一口サイズのミニフライパンにチーズを乗せ卓上グリルで温めて、チーズがとろとろに溶けたら、茹でた野菜やハムなどにかけて食べる。冷静になって考えると一食でとんでもない量のチーズを摂取しているが、カロリーのことは考えてはいけない。
お好み焼きでも鍋でも、家族や友達で、熱いものを囲んでふうふう言いながら食べるのはなぜこんなに美味しいのだろう。

12月某日。雪。
朝、今季の初雪が降った。息子は今までに何度か雪を経験しているが、今回初めて、「ゆきだね!」と言った。一緒に歩いていると突然立ち止まって、「ママ、ゆきでしろくなったね!」と指差した。見ると、私の黒いコートに雪がうっすら積もって、白くなっていた。
彼が生まれて半年の頃、初めて雪が降ったとき、アパルトマンの窓辺からじっと外の景色を眺めていた後ろ姿を思い出す。息子の成長に感謝しながら、手を繋ぎ歩く、特別な朝。凍えるほど寒いけれど、白とグレーに染まった街並みは、好きな色調だ。それに、一日のうち、午後に陽が落ちる前の一瞬だけ、建物や木々が黄金色に照らされる時間があって、その光も大好きだ。

12月某日。晴れ。
ノエルに向けてリースやスワッグの製作、配達、ワークショップに明け暮れる日々。
ご自宅に出張しておこなったスワッグのワークショップでは、それぞれの個性が顕著に表れて楽しかった。もちろん一概には言えないことではあるが、パリジェンヌは、説明は半分聞き流して、豪快に、自由に製作する人が多く、こちらも意図していなかったものが出来上がってきたりするのだが、その独創性には刺激をもらえる。何よりも、細かな部分にいたるまで「これはここにあった方が良いと思う」と言えるほど、自分自身の好みを熟知しているところが素晴らしいと思う。

12月某日。晴れ。
気温がマイナスになる日が続いて、悲鳴をあげている。もうひとつ街で聞こえてくる“悲鳴”といえば、開催中のサッカーワールドカップ。国民をあげてサッカーが大好きな国フランス、期間中は皆、仕事中も公然と携帯で試合を見ているのは、冗談のような本当の話だ。保育園では、父兄から度々「日本すごかったね!」と声をかけられた。
決勝戦は、日曜16時スタート。夕方、花の配達のために外に出たら、週末だというのに通りには人がほとんどいなくて驚いた。商店もレストランもガラガラで、唯一、道にまで人が溢れ出して賑わっていたのは大画面のテレビが置いてあるカフェだ。
リードされていた中、フランスが巻き返しの2点目のゴールを決めた瞬間、信号待ちをしていた車たちは軒並みクラクションを鳴らし、歩道に飛び出してきた客たちは発煙筒を焚いて、大騒ぎ。通りすがりの私もハイタッチを求められ、笑ってしまった。改めて、フランス人の母国愛とサッカー愛は、並大抵ではない。

12月某日。小雨。
フランスでは、年末の食卓の定番といえば、海の幸である。マルシェの魚屋にも、ホタテやウニ、牡蠣、オマール海老など高級品が並ぶようになってきた。前に並んでいた白髪のマダムが「8人前ね」と頼んでいるのを見て、きっと週末には家族が集まってくるのだろうと想像してあたたかな気持ちになる。
私も雰囲気に乗せられて、貝殻付きの帆立を買う。先日SNSで見かけた、帆立にソブラサーダ(sobrassada)をのせてオーブンで焼いたレシピが美味しそうだったので、試してみようと思ったのだ。ソブラサーダというのはスペイン生まれの生のソーセージで、パプリカや香辛料が入っている。帰宅してから早速作ってみた。いかにもワインがすすみそうな味で、作り方も簡単なので、人が集まるときやアペリティフにちょうどいい一品だ。誰か誘おうかと、友人たちの顔が思い浮かぶ。
この季節は、大切な人への想いや平和への祈り、喜び、希望が街に溢れていて、イルミネーションと共に、曇り空のパリを輝かせている。

【今月の花】
アネモネ


市場には春の花たちがたくさん出始めて、心浮き立つ季節はもう始まっている。開花の大胆さ、クセのある茎の曲がり、そしてそれとはギャップのある、透き通るような薄い花弁の繊細さ。八重のものやパウダーで着色しているものなどバリエーションもあるが、個人的にはアネモネと言えば、この深く、青みの強い紫色。ブルーのヒヤシンス、濃紺に色づいた実、ボルドーのアンスリウムと一緒に活けて、それぞれの個性と調和を楽しみたい。

フラワースタイリスト
守屋百合香

パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris

Text&Photographs: Yurika Moriya

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