おこさま人生相談室 第73回-小林エリカ

おとなのお悩み

もうすぐ子どもが生まれるにあたり、都会に住むのがいいのか、田舎に住むのがいいのか、迷っています。

今回、人生相談にお答えいただくおこさまは、ようさん11歳です。
昨年はピアノのコンクールに2回出場しました。弾いたのはシューベルトやメンデルスゾーン。よく聴く音楽は「スピッツ」の曲。クラシックやジャズも好き。お母さんと観た外国映画や、大好きな「ドラえもん」のサントラを聴くことも。
ようさん、本も何でも読むけれど、どちらかといえば外国の作家さんの本が好きだそう。特に好きな作家さんは、アンドリュー・クレメンツ。

おこさま紹介
お名前:よう
年齢:11歳
生まれた場所:東京
住んでいる場所: 世田谷区
好きな食べ物:サツマイモ
嫌いな食べ物: なんだろう、ピーマンかな。
これまでの人生で楽しかったこと:旅行かな。いっぱいあるけど、クリスマスにニューヨークに行ったこと。
これまでの人生で哀しかったこと: ひいおばあちゃんが亡くなったとき。小さい頃から使っていたネックウォーマーを失くしちゃったこと。
得意なこと: ピアノと算数と英語。
苦手なこと: どっちかっていうと、みんなが休み時間にやるような、野球とかサッカーとか、そういうのは苦手かな。
好きなこと: 読書と音楽を聴くこととお喋りと家族と「ドラえもん」と。それがあれば生きていける。
未来の夢: まだあんまり決めてない、考えてないけど。最近ちょっといいなあと思っているのは建築家とか、学校の先生とか。

おこさまをよく知る人からのご紹介のことば:
「周りの人の心の機微を捉えられる大人びたところもある半面、白くてふわふわの丸いパンがよく似合う、純粋でかわいいところもたくさん。何よりお母さん思いのようくんです」
(ようくんが生まれた翌日からのお付き合いのよたちゃんより)

さて、今回のおとなのお悩みは?
Q
もうすぐ子どもが生まれるにあたり、都会に住むのがいいのか、田舎に住むのがいいのか、迷っています。夫婦ともに田舎育ちです。都会に住んでいたこともありますが、競争も激しいし、上下の格差も見えて、ちょっと疲れてしまったところもあります。とはいえ、子どものことを考えると、勉強や学校、文化の面では充実しているようにも感じます。仕事は場所を選ばずにできるので、都会と田舎どちらに住むこともできます。
(坂本さん 35歳 福島在住)

(ようさん、以下Y)

Y どっちがいいのかな。どっちも良さがある。
おじいちゃんが滋賀に住んでるんだけど、ちょっとした近所の人との関わりとか自然とか、そういうものは地方のほうがあるし、都会は都会ですごく便利だし、都会でしかできないこともあるから、どっちもいいと思うけど………。
たとえば、どちらかじゃなくて、都会で育って、一時期、地方に行ってみるとか、そういうことでも良くって………。
おじいちゃんが、二地域居住っていうのをずっと言ってて、どちらにも良さがあるから、両方知ったほうがいいって。
だから最初はいろんな経験をするために、まず都会にいて、(その後)ちょっと地方に行ってみるとか?
住んでいるのは都会でも、夏休みとかそういうときに地方に行ってみるとか。
どっちもを知る、っていうのがいいかなって。

──なるほど、都会か田舎どちらか、ということではなく、都会と田舎両方を知るのがいい、ということですね。

Y やっぱり、都会はすごくいろんなことができるし、便利だけど、逆に地方でしかできないこともあるし。だから、(自分は)都会に住んでるけど、おじいちゃんおばあちゃんのところに行ったりして、バランスが取れてて、結構楽しいなって。

──ようさんは、暮らしているのは都会ですが、夏休みなどに滋賀のおじいちゃんさんやおばあちゃんさんの田舎へ行くことでバランスを取っている、ということですね。

Y そこで、畑をしたり、お散歩したり、そっちでしかできないことをして。
生活は都会の方が便利なこともあるだろうから。でも、便利すぎることしか知らないと、もったいない気もする。

──都会は生活も便利なことも多いが、便利すぎることしか知らないのは、もったいない。

Y 田舎は自然が素敵だから。そこにいるだけで楽しいみたいな感じ。自然が大好きだから、東京に戻ってきたときは寂しくなる。
逆に、(都会から田舎に)行ったときは、ずーっといると暇だなって思うこともある。東京だといろいろなことをするけど、田舎だとなんにもできないから、逆になんにもしないっていうのがいい休みになったりするし。どっちにもいる、っていうのが、いいかな。

──どちらも知れば、それぞれの良さがわかる、ということですね。
ちなみに、ようさんは都会で育っていますが、都会で育つのはどうですか?

Y やっぱり。都会生まれ都会育ちとしては、子どものときは都会にいたほうが便利なこともあると思うから、最初は都会にいて、一回離れてみるっていうのがいいかな。

──ちなみに、都会はどんなところが便利なのでしょうか?

Y お芝居を観たりコンサートに行ったり美術館に行ったり、そういうことが楽しい。東京の中でもいろんなところがあって、都心の、本当に中心の車しか走ってないところだけじゃなくて、ちょっとお出かけできる(ところがいろいろある)のも素敵だなあって思う。

──ところで坂本さんは、都会は競争も激しいし、上下の格差も見えて、ちょっと疲れてしまったようです。実際、都会は受験をはじめ、競争も激しいですし、上下の格差も見えやすそうですが、ようさんはどう感じていますか?

Y ぼくもずっといると疲れちゃう。ずっとそこにいて、それしか知らないと、それがあたりまえになっちゃうし。そういう心になっちゃうから。

──ずっと都会にいてそれしか知らないと、競争が激しいことも、上下の格差があることも、あたりまえになってしまう。それがあたりまえという、心になってしまう。

Y そうなってしまうともったいない、っていうことは思うかな。

──競争が激しいことや、上下の格差があることが、あたりまえではないことに気づけないのは、もったいない。

Y (そういうことに)疲れたら、ちょっと離れようって、田舎でのんびりっていう選択をしてみたらいいんじゃないかな。

──都会を離れ、田舎を知ることで、客観的になり、気づきがあるかもしれません。
ちなみに、坂本さんがまずはじめに拠点を置くとしたら、都会と田舎のどちらがおすすめ、などありますか?

Y 子どものときにいろんなことをしたいから、環境としてはいろんなものが揃ってる都会かな。田舎だと選択肢を探さないといけないけど、都会はいっぱいありすぎて逆に選ぶのに困っちゃうぐらい(選択肢が)いろいろある。だからそこで、ちょっと(経験を)豊かにして、(その後に)田舎で、それとは別のよさを楽しむみたいな。

──具体的に、はじめから二拠点にしたほうがいい、あるいは、何歳くらいで都会から田舎へ行くのがいいなど、おすすめのプランはありますか?

Y それはその人が決めたほうがいい。人によって全然違うから。その人に一番いいタイミングっていうのは。なんかちょっと疲れちゃったとか、今の環境に飽きてきたとか、居心地が悪いとか、(そういうこと)に気づいたら、他のところっていうのを考えてみるようにするのがいいんじゃないかな。

──たとえば将来、坂本さんは田舎にいたいけれど、こどもは都会にいたい、など意見が食い違うようになったら、どうするのがいいでしょうか?

Y どっちかに合わせないで、どっちも正直に話して、家族全員にとってどれが一番バランスがいいかっていうのを考えてみたらいいんじゃないかな。
隠したり、自分も相手に合わせたりするんじゃなくて、無理せず、一緒に考えたらいいと思う。

(ようさんによる処方箋画)

こっち(都会)は色々何でもあって環境が整ってて便利だっていうことで、こっち(田舎)は自然がたくさんあったり人との交流ができるっていうの。
それを行ったり来たりして、どっちも知ろう、ってかんじ。

坂本さん、いかがでしたか?
都会と田舎、そのどちらも知ることで、あたりまえが、あたりまえになってしまったり、あたりまえの心になったりしないようにするのが、よさそうです。
自分や家族たちにとって、一番いいバランスを見つけてみてください。
というわけで、今回の、おこさまからの箴言。

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絵・取材・文
小林エリカ

近著はシャーロック・ホームズ翻訳家の父の生と死を描いた『最後の挨拶 His Last Bow』(講談社)、はじめての絵本『わたしは しなない おんなのこ』(岩崎書店)。他の著書には小説『トリニティ、トリニティ、トリニティ』(集英社、第7回鉄犬ヘテロトビア文学賞受賞)や『マダム・キュリーと朝食を』(集英社、第27回三島賞候補、第151回芥川賞候補)、コミック『光の子ども』1〜3巻(リトルモア)など。