おいしいおはなし第57回『小さなバイキング ビッケ』ビッケの故郷・スウェーデンのロールキャベツ

テレビアニメで金髪おかっぱのバイキングの少年・ビッケに親しんだ人も多いかもしれません。テレビ放送は1974〜1975年だったそうですが、何度も再放送されたりリメイクされたりして、日本はもちろん世界中で子どもたちに大人気。そんなビッケの物語は、スウェーデンの作家ルーネル・ヨンソンの原作で、『小さなバイキング ビッケ』はそのシリーズ第1作。ビッケが初めての航海に連れて行ってもらって帰ってくるまでの冒険譚です。自由自在に船で海を旅するバイキングへの憧れはこれを読んで抱いたのかもしれません。それは、ひらめきとアイデアで仲間を助けるビッケへの憧れでもありました。

大人になって読み直してみると、この物語の魅力がビッケのひらめきだけでなく、ビッケのお父さんの息子へのまなざしにもあるように思えます。お父さんのハルバルは、ビッケたちの暮らすフラーケンの族長です。筋骨隆々で、有名な戦士。おはなしの冒頭では、ビッケがオオカミに追いかけられて上手に逃げていることを情けなく思っています。勇敢に戦ってほしい、と思っているのです。ところが、ビッケと石運び競争をして負けた時、お父さんはいさぎよく敗北を認めます。それはビッケの知恵を認めたということです。

調子に乗りそうなビッケに「うぬぼれてはだめ」とたしなめるお母さんのイルバもかっこいい。ビッケの味方をしてくれながらも、勇敢で強いお父さんを尊敬しています。だからビッケも〈ぼくのお父さんは、最高だ〉とまっすぐに言葉にできるのです。なのにお父さんのハルバルは〈もし、自分のお父さんの方がもっといい、という子どもがいたら、ビッケはどう答える?〉と、ちょっと意地悪なことを問いかけます。そういう子は相手にしないと答えるビッケに、〈だまって相手にしないだけなのか、ビッケ?〉と訊ねるハルバル。もしかしたら心の中で「男の子なら相手に一発食らわすくらいのことはしてほしいもんんだ」と思っていたのかもしれません。しかしビッケはこう答えます。〈自分の父親のことをよくいう子の気持ちもわかってやらなければ〉(48〜49頁)と。そしてハルバルは黙ってあいづちをうち、息子の考え方を肯定するのです。

そうしてビッケを連れて行った航海の間、なんでも腕力で解決してきたバイキングの族長は、たびたび息子の知恵に助けを求めます。仲間たちに〈こんなちびっ子のバイキングに聞いたって無駄さ〉と言われても、お父さんはビッケの考えに耳を傾けるのです。そしてすぐに、その賢さや思いやりの深さは他のバイキング仲間にも知るところとなり、ビッケは一目置かれるようになります。

でも、ビッケのすごさを本当にわかっているのは、やっぱり父・ハルバルだけなのかもしれません。彼にしか見えないものがあるからです。
〈ハルバルはいいました。「ビッケが一生けんめい考えると、魔法の火花がとびちるんだ」でも、火花が見えるのはハルバルだけでした。〉(110頁)
短くさりげない文章ですが、ここを読むと、誰がなんといっても息子を信じると決めたハルバルの思いと愛情が伝わってくるようです。航海の間、ハルバルはビッケの火花を何度も目撃します。その度に、ビッケの知恵は仲間を救うのです。

お父さんと3人の仲間たちがフランク人のお城に囚われたときには、ビッケは知恵だけでなく、勇気をも振り絞って自ら危険の中に飛び込んでいきます。ビッケはお城に漂う焼き肉に魚やロールキャベツのいいにおいを嗅ぎつけ、宴会の給仕係としてお城に潜入するのです。さて、ビッケはどんなふうに囚われた4人を救うのでしょうか。

さて、ロールキャベツといえば、ビッケの故郷であり作者ヨンソンの故郷でもあるスウェーデンには伝統的なレシピがあります。日本のロールキャベツのように煮込むのではなく、オーブンで焼いて仕上げ、しかもほんのり甘い……それは、焼くときにお砂糖入りのソースをかけるから! 焦げ目の香ばしさと相まって優しい甘さがおいしい一品です。冬の食卓にぜひ、どうぞ。

〔材料〕

(2人分)
【A】
合い挽き肉 300g
玉ねぎ 小1/2
にんにく 1/2かけ
ごはん 70g
牛乳 50ml
塩 小さじ1/2
こしょう 少々
オールスパイス 少々
キャベツ 中くらいの大きさの葉 6枚

【B】
バター 小さじ2
砂糖 小さじ2
コーンスターチ 小さじ1
塩 小さじ 1/4
チキンストック 200ml
生クリーム 100ml
ローリエ 1枚

茹でたじゃがいも

〔つくり方〕
  • 下準備。
    玉ねぎはみじん切りにし、にんにくは細かいみじん切りにしておく。キャベツは沸騰したお湯でしんなりするまで茹で、芯の部分はそいでおく。そいだ芯はみじん切りにし、次の工程のタネに加える。
  • タネを混ぜる。
    キャベツ以外のAの材料と❶のキャベツの芯を全部ボウルに入れてよく混ぜ、ラップをぴたりとかけて30分ほど冷蔵庫で休ませる。オーブンを180℃にあたためておく。
  • 巻く。
    ❷を6等分にし、キャベツでそれぞれ巻き、巻終わりを下にして耐熱容器に並べる。
  • ソースを作る
    Bの材料をすべて鍋に入れ、沸騰させないように弱火で温めながらよく溶かして混ぜ合わせる。
  • 焼く。
    ソースを❸の耐熱容器に上から流し入れる。180℃にあたためたオーブンで30〜35分程焼く。時々スープを上からまわしかける。良い感じに焼き色がついたら完成。茹でたじゃがいもと一緒に器に盛る。

お砂糖が入っているソースは焦げやすいので、時々オーブンの中を確かめて、ロールキャベツの表面が焦げすぎるようならアルミホイルで覆って焼きます。

『小さなバイキング ビッケ』
ルーネル・ヨンソン作、エーヴェット・カールソン絵、石渡利康訳(評論社)
むかしむかし、北欧の海岸に暮らすバイキングと呼ばれる人々がいた。荒々しい男たちは北の海を船で駆け回り、町や城をおそって財宝を手に入れていたけれど、フラーケの族長の息子ビッケは、力ではなく知恵で領主と取引をして財宝を手に入れ、トラブルや危険に打ち勝っていく。はじめは腕力を誇って戦いたがっていたバイキングの男たちも、次第にビッケのやり方を認めていき……。人気のシリーズ第1作。ビッケの初めての航海を描いた冒険物語。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子