おいしいおはなし第54回『オンネリとアンネリのおうち』夏を味わうしゅわしゅわドリンク

《オンネリちゃんはわたしの親友で、わたしはオンネリちゃんの親友です。》という一文から始まる『オンネリとアンネリのおうち』は、二人の女の子(もちろん名前はオンネリとアンネリ)の夏の物語です。夏の物語といえば、冒険。このおはなしでは、ふたりが自分たちの家を手に入れて子どもだけのふたり暮らしを始めるのです。秘密基地作りや隠れ家作りに夢中になり、『ピーターパン』や『ツバメ号とアマゾン号』のような子どもだけの暮らしに憧れる小さな読み手は、ハートをギューっとつかまれます。
またその家が素敵なこと。
《屋根は赤いかわら、かべはまっ白、ドアと窓はこい緑でした。かべにはツルバラがはって、いっぱい花が咲いています。見たこともないくらい、バラが、いっぱい咲いていて、まるで眠り姫のお城みたい。》(26頁)

このおはなしの語り手であるアンネリちゃんは、お金持ちだけれどお父さんにもお母さんにも構ってもらえない一人っ子。一方オンネリちゃんは、きょうだいが多すぎるがゆえに孤独を感じています。ふたりはお互いのさみしさを肌で理解しているから、「たくさんきょうだいがいていいな!」「お金持ちでいいな!」と相手を羨むことはありません。何よりふたりでいれば、さみしさを憂いている暇はないのです。大好きな友達と一緒に過ごす楽しさがすべてに勝るのは、子ども時代の特権です。

ふたりの家の両隣に住んでいるのは不思議な大人たち。お巡りさんのリキネンさんとも仲良くなって、オンネリちゃんとアンネリちゃんの夏は賑やかに進んでいきます。
最後、ふたりの両親がようやく子どもたちが家を離れて暮らしていること気がつきます。そこへ、家の元の持ち主の薔薇乃木夫人もやってきて、ふたりに「この夏のふたり暮らしはどうだった?」と聞きます。「楽しかったわ!」と即答するふたりに、薔薇乃木夫人はさらに「しあわせだった?」と訊ねます。「しあわせって、どんなこと?」というオンネリちゃんの質問に、大人たちはみんな少し困った顔をしながらも、それぞれが感じる幸せについて語ります。それをじっと聞いていた二人は声をそろえて答えるのです。「わたし、わたしたち、この夏はしあわせだったと思うわ」と。そしてみんなは、バラの咲き乱れるふたりのお庭で、オンネリちゃんの8歳の誕生日を祝うのです。

このお誕生日パーティのためにふたりが用意した飲み物がシマです。本の中ではカッコ書きで(はちみつとレモンとレーズンいりの、子どもたちの大好きな飲みもの)と説明されているこのシマは、フィンランドの夏のドリンク。微発泡の発酵ドリンクで、レモネードとはひと味違うやさしい風味。オンネリちゃんとアンネリちゃんの住んでいるフィンランドでは、家庭で手作りするだけでなく、市販品もあるほどスタンダードなんだそう。

パーティの後、みんなを見送ったふたりが玄関ポーチの階段に座っているシーンは印象的です。親友とふたりで、楽しかった時間の名残を味わうのは、満ち足りたしあわせなひとときです。

*シマはイーストを使って発酵させるので、ごくごく微量ですがアルコールが含まれます。ご注意ください。

〔材料〕

水 1ℓ
三温糖 70g+小さじ1
レモン 1個
ドライイースト 小さじ1/4
干しぶどう 10粒

〔つくり方〕
  • 下準備。
    シマを作るボトルなどの保存容器は、きれいに洗って熱湯で消毒し乾かしておく。
    レモンは皮の表面を包丁などで薄くむいてお茶パックなどに入れておく。
    果実部分は白いわたをきれいに包丁で取り除き輪切りにする。
  • 砂糖湯をつくる。
    鍋に水と砂糖70gを入れ火にかけ沸騰させ、よく溶かす。
  • 混ぜ合わせる。
    レモンの皮と輪切りレモンを②に加え50℃以下まで冷めたらドライイーストを加えて混ぜ、蓋をして室温で一晩置いておく。
  • 熟成させる。
    しゅわしゅわしているのが確認できたら、レモンの皮と身を取り除き、保存容器に移す。
    干しぶどうと三温糖小さじ1を追加で加え、ゆるく蓋をし冷蔵庫で数日寝かせる。
    干しぶどうが全部浮いてきたら飲み頃。
    底にたまったイースト部分は混ぜずにそっとグラスに注ぐ。
    完成したら冷蔵庫に保存し3〜5日中に飲み切りましょう。

熟成させるときにぴっちりと蓋をしてしまうと、発酵で発生するガスで容器がパンパンになるので、ゆるくゆるく蓋をして保管します。冷蔵庫の中で倒れたりしないように注意ですね。

『オンネリとアンネリのおうち』
マリヤッタ・クレンニエミ作、マイヤ・カルマ絵、渡部 翠 訳(福音館書店)
オンネリとアンネリは親友。楽しみにしていた夏休み、ふたりは「正直な拾い主さんに差し上げます」と書かれた封筒を拾う。中に入っていたのはたくさんのお金。家族の誰にも構ってもらえずひとりぼっちだったふたりは、そのお金でふたりだけのおうちを手に入れることになり、楽しいふたりぐらしが始まる。洋服も食べるものもおもちゃも、ふたりのために用意されたかのような素敵なおうち。ユニークなおとなりさんとの交流や事件を経て、ふたりの夏が迎える大団円。普通の小さな女の子が出会う不思議の数々にわくわくしながら、美しいフィンランドの夏の雰囲気を味わえる物語。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。