おいしいおはなし第53回『シャーロットのおくりもの』農場の初夏の味はブルーベリーパイ

海外のおはなしを読んで憧れたものは、寄宿学校やらボンネットやらスミレの花の砂糖漬けやらいろいろありますが、農場もそのひとつ。起伏のあるだだっ広い草原が広がっていて、そこには羊や馬やアヒルやブタや犬や猫が暮らしていて、小川や木々の向こうに大きな納屋と人々の暮らす家が建っている。家には日当たりの良い大きなキッチンがあって、いろんなおいしいものの匂いが漂っている。そんな憧れの農場の様子をたくさんの物語から空想をふくらませて頭の中に描いたものでしたが、この『シャーロットのおくりもの』も農場暮らしのヒントをくれたおはなしのひとつです。
おはなしは、小さすぎるブタの赤ちゃんが生まれたところから始まります。その子ブタを“しまつ”しにいくお父さんを泣きながら止めるのが8歳の女の子ファーン。お父さんは言います。〈そんなにいうなら、哺乳びんで育ててみなさい。ブタを育てるのがどんなにたいへんなことか、わかるだろう〉(P.10)。そうしてウィルバーと名付けられた子ブタはファーンに育てられて、一人前のブタになっていきます。主人公はこのブタのウィルバーです。

といっても、人とブタの物語ではないのです。物語が進むにつれ、つまりウィルバーが成長して納屋暮らしになると、登場人物は人よりも農場に暮らす動物たちがメインになっていきます。そして、育ての親のファーンに代わってウィルバーの親友となるシャーロットが登場します。さみしくて納屋で泣いているウィルバーに声をかけたシャーロットはクモでした。シャーロットはクモの生き方を話し、ウィルバーは感心します。そしてシャーロットはウィルバーを気に入って、友達になるのです。
そのうちに夏休みになり、ファーンは毎日納屋に通って動物たちと日々を過ごします。ガチョウの卵がかえったこと、1つはかえらなかったのでネズミのテンプルトンがもらったこと。そしてガチョウの卵がかえったときにシャーロットが立派な演説をしたこと。そんな動物たちの様子を観察してファーンが楽しんでいる一方、ブタのウィルバーは農場の人たちが自分を太らせるのは食べるためだということをガチョウや羊から知らされます。ショックを受けてワアワア泣くウィルバーのために、賢いシャーロットはウィルバーの命を救うために〈人間をあざむく〉計画を練り始めます。
このおはなしでは、命や死について率直に描きます。ウィルバーが小さすぎて育たないからと殺されそうになったり、立派に育ったら育ったで食べられそうになったり、ブタは人間にとってあくまでも家畜です。わんぱくなファーンの兄はカエルを捕まえたり、クモのシャーロットも捕まえようとします。唯一ファーンにとっては動物は友だちでしたが、そのファーンも成長して次第に動物ではなく人に興味が向くようになっていく様子に読む人は気がつくでしょう。ファンタジーでありながら生き物のリアルや子どもの成長のリアルがあり、そしてその上で紡がれるブタのウィルバーとクモのシャーロットの友情は忘れられない物語として心に残ります。そして夏の農場の美しい風景や農場のザッカーマンさんの奥さんが作るブルーベリーパイも。
パイを食べた後、兄と妹は納屋のブランコで遊びます。〈お兄ちゃんの舌、ブルーベリーのせいで、むらさき色になってるわよ!〉(P.91)とファーン。初めてこれを読んだ頃、舌がむらさき色に染まるというブルーベリーは、まだ見ぬ憧れの果物でした。今は冷凍物が年中手に入りますし、初夏になると生のブルーベリーも出回りますから、ぜひ甘酸っぱい農場の夏のおやつを再現してみてください。

〔材料〕

(18cmパイ皿)
A
 薄力粉 100g
 全粒粉 20g
 バター 40g
 砂糖 25g
 冷水 大さじ1と1/2
B
 ブルーベリー(生) 250g
 砂糖 60g
 コーンスターチ 小さじ1

〔つくり方〕
  • 下準備。
    オーブンは180°Cに温めておく。
    バターは1cmくらいの小さな角切りにして冷蔵庫で冷やしておく。
  • パイ生地を作る。
    ボウルに粉類と砂糖を合わせてバターを加え、両手でこすり合わせるようにして粉にバターをなじませ、パラパラの状態にする。
    冷水を加えたらケッパーなどで切るように混ぜ、かたまりにまとまってきたら、こねずにそのままラップにくるんで、冷蔵庫で1時間ほど寝かせる。
  • フィリングを作る。
    Bの材料を小鍋に入れ混ぜ、弱火で10分くつくつとろみが出るまで煮て、パイ生地を敷く間に冷ましておく。
  • パイを焼く。
    ❶の生地をパイ皿よりひと回り大きいくらいのオーブンシートの上に出す。
    手で押して広げたら、めん棒を使ってパイ皿よりひとまわり大きく丸く伸ばす。
    シートごとパイ皿にのせ、生地を皿の内側にそわせ、❷を入れる。
    ふちの生地の余った部分を内に折り返しながら、皿に指で押し付けるようにして成形する。
    温めておいたオーブンに入れ、30分ほどきつね色に色付くまで焼く。ふちが焦げてきたらアルミホイルで全体を覆うこと。
    冷ましたら、切り分けてめしあがれ!

パイ生地は、フードプロセッサーを使うと簡単です。粉類、砂糖、バターを全部入れて攪拌し、サラサラになったら水を加え数回撹拌します。パイ生地をサクサクに仕上げるためにはこねないこと! 多少ぱらぱらでもまとめてラップに包めば大丈夫です。

『シャーロットのおくりもの』
E.B.ホワイト作、ガース・ウィリアムス絵、さくまゆみこ訳(あすなろ書房)
8歳の少女ファーンは小さく生まれた子ブタを自分で育てることに。子ブタはウィルバーと名付けられファーンの愛情に包まれて幸せに育ったが、もはや赤ん坊ではなくなったため、近所のザッカーマンさんの農場の納屋で暮らすことに。そこにはファーンのように遊んでくれる友達はいないと寂しがるウィルバーに、納屋に住んでいたクモのシャーロットが声をかける。ウィルバーの友達になったシャーロットは、ウィルバーが納屋でずっと暮らせるように作戦を立てる。夏から秋に移り変わる季節の中で、シャーロットの作戦が進行し、ウィルバーを取り囲む状況は変化していく。1952年に書かれて以来、版を重ね世界中で読み続けられている物語。日本語版も2001年に新訳版が出た。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子