おいしいおはなし 第30回『雪わたり』ほっぺたが落ちるほどおいしいきび団子
宮沢賢治の童話には、幻想的な風景がたくさん登場します。『銀河鉄道の夜』の夜空を駆ける列車の車窓、『やまなし』の蟹の親子が暮らすきらめく川の中、そして『雪わたり』の雪原。
雪がすっかり凍って大理石よりも堅くなり、空も冷たい滑らかな青い石の板で出来ているらしいのです。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ。」
お日様が真っ白に燃えて百合の匂を撒きちらし又雪をぎらぎら照らしました。(3頁)
こんなふうに始まる物語では、雪におおわれた野山を舞台に、人間の子どもたちときつねの子どもたちとの交流が描かれます。
「堅雪かんこ、しみ雪しんこ」と、わらべ歌を歌いながら雪原へ遊びにでかけた四郎とかん子の兄妹は、白い子ぎつねと出会います。きつねをからかって四郎が歌うと、子ぎつねの紺三郎も歌って返します。
物語の中で兄妹やきつねたちが歌う「堅雪かんこ」の歌は、地域によって歌詞が変わったりしながら、岩手や青森の辺りに伝えられてきたわらべ歌だそう。読んでいると、元の歌を知らなくても、その歌声が耳の奥から聞こえてくるような、素朴でリズムのよい言葉です。声に出して読みたくなってしまいます。
ほかにも、この作品には声に出して読みたくなるような言葉が登場します。たとえば、かたく凍った雪原を歩いたり踊ったりすると〈キック、キック、トントン。キック、キック、トントン〉(13頁)と足元が鳴り、森の中の木の芽は〈風に吹かれてピッカリピッカリと〉(15頁)、月夜の雪は〈チカチカ青く〉(19頁)光ります。「キラキラ」「パチパチ」などのお馴染みのオノマトペもあちこちに織り交ぜられ、読んでいるとその手触りや音や色が、自分が体験したことのように頭の中に再現されるのです。
自然の様子を描く独特のオノマトペは、宮沢賢治のほかの物語にもたくさん見つかります。彼の自然に対する真摯なまなざしや自然を感じる力の豊かさが、そんな表現を生み出したのではないでしょうか。外遊びに出かけるときには、宮沢賢治の物語を読んで、彼の言葉を胸においてから自然と触れてみると、見え方が違ってくるかもしれません。
さて、おはなしのクライマックスに登場するのが、子ぎつねたちと人間の子どもたちのきずなを確かなものにするきび団子。子ぎつねが四郎とかん子につくったきび団子は、ほっぺたも落ちそうなほどのおいしさだったそう。
最近はその高い栄養価で見直されてきたきびなどの雑穀。ごはんに混ぜて食べたりしますが、ぜひお団子でもその風味を味わってみてください。
〔材料〕
(直径2㎝のお団子各20個分)
【きび団子】
団子粉 100g
もちきび 大さじ2
木綿豆腐 1/2丁(150g)
【たかきび団子】
たかきび粉 50g
団子粉 50g
木綿豆腐 1/2丁(150g)
あんこ、きな粉、黒蜜 各適量
〔つくり方〕
- きび団子をつくる。
鍋にもちきびと被る程度の水を入れ中火にかける。沸とうしたら弱火にし3分ほど茹でて、目の細かいザルに上げる。
ボウルに団子粉、木綿豆腐を手でつぶしながら加え、少しかための耳たぶ程度になるまでこねる。
水気をきったもちきびも加えて、均一に混ぜる。 - たかきび団子をつくる。
ボウルにたかきび粉と団子粉を入れ、木綿豆腐を手でつぶしながら加えてこねながら、耳たぶ程度になるまでこねる。 - 鍋にたっぷりの湯を沸かす。
❶と❷をそれぞれ2㎝程度に丸めて茹でる。浮き上がってきたものから冷水に取り、水気をよくきる。 - 皿に団子を盛り、あんこやきな粉、黒蜜を添える。
水の代わりに豆腐でこねると、かたくなりにくいのです。お味噌汁に入れてもおいしいですよ。