続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilKJAPON webで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。その様子を短期連載として数ヶ月間、お届けします。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。
前回の手紙はこちらから

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第5回「本を読む時間が贅沢に感じる」
(長島有里枝→山野・アンダーソン・陽子)

陽子さま

東京も、先週まではすごく日が長くて気持ちよかったです。まだ5時ぐらいかな、という明るさなのに7時を過ぎていたりして、1日が長くなったようで嬉しかったけれど、ストックホルムは夜中まで明るいんだね。夏のヘルシンキを思い出しています。パートナーの引っ越しを手伝いに6月のロヴァニエミに行ったときは、午前2時ぐらいまで空が明るかった。夜更かし派の自分が北欧に住んだら、夏はいつも寝不足になりそうです。

こちらはいま、梅雨まっただなかです。最後に太陽を見たのって、いつだったっけ……。少なくとも今週は、晴れていたとしてもほんの一瞬でした。窓を開けていると床がベタベタになるし、家に置いている作品やネガは湿気にとても弱いので、あまり好きではないエアコンをドライモードで使い始めました。おとといの七夕も雨で、当然だけど星は一切見えませんでした。今週末は近所の遊園地で花火が上がる予定だけど、それも中止かなぁ。

スウェーデン人のお庭事情、というか森事情を教えてくれてありがとう。手紙を読んで、「やっぱりね!」と思ってしまった。自然の花を摘まないとか、森の奥深くに自生している花を見に連れて行ってくれるお義父さんとか、想像通りの自然との付き合いかただなぁ、と嬉しくなりました。ネジバナと言えば先週、友人の紹介で会ったアーティストのおうちにピンクの小さな花が飾ってあって、面白いかたちだなと思ったらそれがそうでした。ネジバナを見たのは多分初めてです。子どものころに指で編んだ、リリアン糸の飾りとそっくりでした。ちょっとだけ芽キャベツも思い出した(あれはかなり恐怖の見た目だけど)。そのあと、自然界に螺旋って多いよな(例えばDNA)とか、北半球と南半球で巻く向きが違うのかとか、あの形状には生命にとって合理的な意味があるのかもとか考えてたら、久しぶりに花の絵を描きたくなりました。もう少し時間ができたら、写真じゃなくて絵を描いてもいいなぁとは、しばらく前から思っているんだけど。

わたしは最近、本を読むようにしています。書評の仕事をしているせいで、本はそれなりに届く(辞めたら急に届かなくなる)んだけど、それとは別に、死ぬまでに読みたい本っていうのがあります。息子が小さかった頃、いつか読もうと買うだけ買っておいた本とかが家に何十冊もあって、そろそろ読書の時間を作るか、百五十歳ぐらいまで生きるかしないと全部読み終わらないことに気づきました。とりあえず小説とかから読んでるけど結構楽しいよ。コロナで通勤時間が減って、しばらく湯船の中でしか本を読めてなかったけれど、このあいだソファでジーン・リースの『サルガッソーの広い海』を読み耽って、2時間ぐらい経っているのに気づいたとき、すごくいい気分でした。

家にいるとやることがいっぱいあって、お茶を飲みながらする読書なんて、最上級の贅沢。子どもの頃は、あんなに本を読む時間があったのにな。周りの大人(うちの場合は特に母)が、わたしの代わりに身の回りのことをやってくれていたからでしょうね。

陽子には、一人でベッドに寝そべったりしながら読書をする時間、ありますか? あるなら、小さい子がいてどうその時間を捻出しているのか、教えてほしいです。日本とスウェーデンの子育て事情の違いが関係していると思う?

ワクチンの接種、1回目が終わったんだね。日本は(7月9日の時点で)遅々として進まず、です。それでもうちは両親と、病院勤務の弟夫婦は既に接種済みだよ。わたしも職域接種を打診されたけど、つい最近になって厚労大臣が急にワクチンの供給を止めると発表したのでうやむやになりました。同じ市に叔父と叔母も住んでいるけれど、まだ接種できていないみたい。イギリスの友人も、アメリカの友人もみんな接種が終わっていて、外食に行ったとか、家族で会ったとか言うので羨ましい! 

ところで、スウェーデンの首相が不信任案可決で退任するんですか。ニュースを検索したけれど、事情がいまいちよく分からず。よかったら次の手紙で、どういうことなのか、教えて。

では、またね。

有里枝

次回更新は8/18(水)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。 

長島有里枝/YURIE NAGASHIMA

1973年東京生まれ。1993年、武蔵野美術大学在学中に「アーバーナート#2」展でパルコ賞を受賞し、デビュー。1999年カリフォルニア芸術大学ファインアート科写真専攻修士課程修了。第26回木村伊兵衛写真賞『背中の記憶』(講談社)で第26回講談社エッセイ賞第36回写真の町東川賞国内作家賞を受賞。子育て中に武蔵大学人文科学研究科博士前期課程へ入学、2015年に同課程修了。ジェンダー・アイデンティティや他者との関係性、女性のライフコースに焦点を当てた写真やインスタレーション作品、文章を発表している。近著に『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)、『Self-Poretlaits』(DASHWOOD BOOKS)がある。

Text&Photo:Yurie Nagashima
Edit:Kana Umehara