LIBRARY新しいファミリー映画2023.01.26

新しいファミリー映画 Vol.18—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『少女バーディ〜大人への階段〜』パワフルで清々しい女の子の成長譚

13世紀のイングランド東部リンカンシャーが舞台の『少女バーディ〜大人への階段〜』はポップな少女映画です。主人公は領主の娘で、“バーディ(小鳥)”と呼ばれている14歳の少女キャサリン。自由に憧れている彼女ですが、中世の少女の人生の選択肢はあまりに限られたものです。
初潮を迎えたバーディは必死にその事実を家族から隠そうとします。しかしそれが明るみになると、荘園が左前で資産の乏しい父親のロロは、バーディを裕福な男性に嫁がせる算段を始めます。バーディにとっては結婚なんてもっての他。彼女はあの手この手で求婚者たちを返り討ちにします。

バーディの周囲を見ても、結婚は悲しいことばかり。母親は何回も死産を繰り返し、親友のエリスとバーディの叔父であるジョージの恋は実らず、それぞれ別の相手との結婚を余儀なくされます。叔父のジョージはバーディの憧れでしたが、資産がないために好きな女性と結婚できず、裕福な未亡人と結婚して彼女をがっかりさせるのです。

家出してジョージの邸宅にたどり着いたバーディは、意外な人物から理不尽な世の中を生き抜くヒントをもらいます。ジョージと結婚して彼女の義理の叔母になったエサルフリーサです。資産力をバックにしてジョージと結ばれたエサルフリーサですが、運命との折り合い方を知っている人でもありました。

原作のヤングアダルト小説は監督レナ・ダナムが十代だった頃の愛読書ということですが、小説と映画ではラストが大分違います。父親ロロが考えを改め、結婚直前だったバーディのために戦って彼女を取り戻す展開は映画独自のもの。父が娘を売り渡すというラストにならなくて、ほっとするところです。

バーディは完璧な自由を手に入れた訳ではないけど、彼女が戦った記録は日記として残り、最後に生まれた双子の妹たちに受け継がれていきます。それが、バーディが自分の家族にしてあげられる一番のことなのです。近しい親族の女性たちの生き方はそうやって、下の世代に影響を及ぼしていくのでしょう。

『少女バーディ〜大人への階段〜』
舞台は1290年イギリスのストーンブリッジ村。領主の娘のバーディはおてんばで幼馴染の羊飼いの男の子と泥だらけになりながら遊んでいる。夢は十字軍に従事すること。でも、女の子のバーディにはそれは叶わぬ夢だ。父のロロ卿の浪費のせいで家計が苦しいため、家族はバーディをお金持ちと結婚させようとするが、現れる求婚者をあの手この手で追い払うバーディ。決められた運命に立ち向かい、自分の道を自分の手で切り開こうとするバーディ。しかしついに最後の求婚者の元にバーディは嫁ぐことに。彼女が旅立つ時、家族は……。
監督:レナ・ダナム
出演:ベラ・ラムジー、ビリー・パイパー、アンドリュー・スコット 他
Prime Videoにて独占配信中
©Amazon Studios

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

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