『少女バーディ〜大人への階段〜』パワフルで清々しい女の子の成長譚
13世紀のイングランド東部リンカンシャーが舞台の『少女バーディ〜大人への階段〜』はポップな少女映画です。主人公は領主の娘で、“バーディ(小鳥)”と呼ばれている14歳の少女キャサリン。自由に憧れている彼女ですが、中世の少女の人生の選択肢はあまりに限られたものです。
初潮を迎えたバーディは必死にその事実を家族から隠そうとします。しかしそれが明るみになると、荘園が左前で資産の乏しい父親のロロは、バーディを裕福な男性に嫁がせる算段を始めます。バーディにとっては結婚なんてもっての他。彼女はあの手この手で求婚者たちを返り討ちにします。
バーディの周囲を見ても、結婚は悲しいことばかり。母親は何回も死産を繰り返し、親友のエリスとバーディの叔父であるジョージの恋は実らず、それぞれ別の相手との結婚を余儀なくされます。叔父のジョージはバーディの憧れでしたが、資産がないために好きな女性と結婚できず、裕福な未亡人と結婚して彼女をがっかりさせるのです。
家出してジョージの邸宅にたどり着いたバーディは、意外な人物から理不尽な世の中を生き抜くヒントをもらいます。ジョージと結婚して彼女の義理の叔母になったエサルフリーサです。資産力をバックにしてジョージと結ばれたエサルフリーサですが、運命との折り合い方を知っている人でもありました。
原作のヤングアダルト小説は監督レナ・ダナムが十代だった頃の愛読書ということですが、小説と映画ではラストが大分違います。父親ロロが考えを改め、結婚直前だったバーディのために戦って彼女を取り戻す展開は映画独自のもの。父が娘を売り渡すというラストにならなくて、ほっとするところです。
バーディは完璧な自由を手に入れた訳ではないけど、彼女が戦った記録は日記として残り、最後に生まれた双子の妹たちに受け継がれていきます。それが、バーディが自分の家族にしてあげられる一番のことなのです。近しい親族の女性たちの生き方はそうやって、下の世代に影響を及ぼしていくのでしょう。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando