LIBRARY新しいファミリー映画2022.12.21

新しいファミリー映画 Vol.17—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『フラッグ・デイ 父を想う日』(12/23公開)大好きだった父の真実を見つめた娘の物語

勝手気ままで、いつも途方もない夢を見て、母親と自分、弟を置き去りにしていく家庭人からはほど遠い人物。それでも主人公のジェニファーが幼かった頃、彼女にとって父のジョンはヒーローのような存在でした。70年代、彼女が子どもで、まだ父も若かった時代が、映画の中で夢のように描かれています。どこまでも続くアメリカの広い大地、父がメモ帳に描いたダイナーの宣伝看板、彼が好きだったショパンのレコード、父が小さな彼女にハンドルを握らせて車を運転させてくれた思い出。父からの電話はいつも大きな世界を感じさせてくれたと彼女は回想します。

しかし十代になり、母親と養父の家を飛び出して父と一緒に暮らすようになった娘は、彼の真実を知ります。父のジョンは実現性のない事業計画ばかりを思い描いて、危ないところからの借金を重ね、いよいよ追いつめられると自分の家や店に火をつけて逃げてしまうような男。誇大妄想とコンプレックスの塊のような父は、娘に嘘ばかりをついて彼女を悲しませます。そしてとうとう犯罪に手を染めるまでになるのです。

原作は、1992年に米国史上四番目の規模だという二千万ドルもの贋金事件を起こしたジョン・ヴォーゲルの娘、ジェニファー・ヴォーゲルによる手記。タイトルは父ジョンの誕生日である6月14日で、アメリカ国旗制定記念日に当たります。街中がお祭り騒ぎになるこの日に生まれた彼は、自分が特別な人間であると信じていました。しかし、他の人たちから認められることばかりを考えて、娘にとってはありのままの自分こそが特別な存在なのだと気がつかないままだったのです。世間から見れば落伍者で、犯罪者。だけど彼に寄り添った娘には、傷つけられたとしても、ジョンの魂の奥底で輝く美しいものが見えます。それを受け継いで、自分自身のものとして生きていくしかありません。
ジョンを演じるショーン・ペンが監督を務めた映画で、ヒロインのジェニファーを演じるのは実の娘であるディラン・ペン。娘に対する父の思いやりがどこかにじんでいる作品です。

『フラッグ・デイ 父を想う日』
1992年、アメリカ最大級の贋札事件の犯人であるジョン(ショーン・ペン)は裁判を前にして逃亡。警察から事件の顛末を聞いた娘のジェニファー(ディラン・ペン)は、父と過ごした幼い頃の宝物のような日々、十代になって父と暮らした日々を回想する。大好きな父が全米を揺るがす犯罪者だったという衝撃の実話は、ジャーナリストのジェニファー・ヴォーゲルが2005年に発表した回顧録が原作。
監督:ショーン・ペン
出演:ディラン・ペン、ショーン・ペン、ほか
12月23日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
© 2021 VOCO Products, LLC
公式サイト

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(サリー・ルーニー著/早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

SHARE