LIBRARY新しいファミリー映画2022.11.21

新しいファミリー映画 Vol.16—山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『ブルー・バイユー』(2021年)望んだのは望んだのは愛する家族と共に生きることだけ

米国ではアジア系の養子は少なくありません。この映画の主人公であるアントニオも、幼い頃に韓国から白人の養父母に引き取られてミシシッピー州で育ちました。今はニューオリンズ郊外で妻のキャシーと、彼女の連れ子であるジェシーと暮らしています。もうすぐキャシーとの間に子どもが生まれるのに、暮らしは苦しく、窃盗の前科があるアントニオはなかなか新しい働き口も見つけられません。そして、更なる悲劇が彼を襲います。警察官であるキャシーの前夫の同僚の嫌がらせによって留置所行きとなり、そこからアメリカ合衆国移民・関税執行局に送られて、国外追放の命令が下されるのです。他国から来た養子の市民権が認められるのは2000年になってからのことで、それ以前に貰われてきた子どもたちにはアメリカに在留権がないという事実を、この映画で初めて知りました。

アントニオのアイデンティティは複雑です。彼にとっては育った土地こそが故郷。しかし養父母との関係は家族と呼べるものではなく、彼は養父に虐待されながら育ちました。一方、自分を手放したがらなかった実母の記憶はあるものの、彼が送り返されそうとしている韓国は頼る人もいない、見知らぬ土地でしかありません。彼にとっての拠点は今いる場所であり、何よりもキャシーとジェシー、そして生まれてくる子どものいる家庭なのです。

ジェシーは実父に捨てられた過去があり、アントニオもキャシーとの子供が生まれたら連れ子である自分を愛してくれないのではないかと心配しています。アントニオはそんな彼女に、自分がキャシーとジェシーを家族として選んだのだと言います。ジェシーが彼を「パパ」と呼ぶのも、彼女がアントニオを選んでくれた証だと。それはアントニオにとって血のつながりよりも、ただ一緒に生活していただけの養子縁組の関係性よりもずっと強い絆で、何よりも彼が守りたいもの。自らが選び取った幸せを奪おうとする残酷な社会と、彼は必死に抗おうとします。こんな無慈悲なシステムと今も戦っている人がいる、その現実について考えさせられる作品です。

『ブルー・バイユー』
韓国で生まれ、わずか3歳でアメリカに養子に出されたアントニオ。大人になりシングルマザーのキャシーと結婚し彼女の娘のジェニーと暮らしていた。しかしある日、些細なことでトラブルを起こして逮捕されたアントニオは、30年以上前の養父母による手続きの不備が発覚。移民局に移送され、国外追放命令を受けてしまう。裁判で異議申し立てするには5000ドルという大金が必要。愛する家族と共にいるために、アントニオがとった行動とは……。アメリカの非情な移民政策に引き裂かれていく家族の物語。
監督・脚本・製作・主演:ジャスティン・チョン
出演:アリシア・ヴィキャンデル、ほか
DVD発売中(3,980円)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
©2021 2021 Focus Features, LLC. All Rights Reserved
※Amazon Prime他で配信も

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』(サリー・ルーニー著/早川書房)等。

Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando

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