LIBRARY新しいファミリー映画2024.03.07

新しいファミリー映画Vol.29 — 山崎まどか

家族のカタチが多様になってきた近年、家族で楽しむファミリー映画もファミリーを描く家族映画も、いろいろで面白い。そんな“新しいファミリー映画”を、コラムニストの山崎まどかさんがピックアップしてご紹介します。

『それでも私は生きていく』悲しみも喜びも、生きるすべては愛おしい(2022年)

この映画でレア・セドゥが演じるのは、夫を亡くし、シングルマザーとして生きる女性。サンドラはさまざまな現場で通訳の仕事をしながら、パリで八歳の娘を育てています。サンドラが気がかりなのは、母と離婚している父のゲオルグのこと。彼は病気で急速に視力と記憶を失いつつありました。いくらサンドラが時間をやりくりし、彼をサポートしようとしても、そこには限界があります。介護施設に入所させなければならない状況です。

監督のミア・ハンセン=ラヴの体験談を基にしているだけあって、サンドラが直面する問題にはリアリティがあります。公営ホームは待機者が多く、私営の施設は料金面でとても手が届かない。最初にゲオルグが入れられた施設を訪れたサンドラと姉が、父の置かれた環境を見て「何とかしようね」と抱き合って別れるシーンが印象的でした。

年老いた親の処遇は、誰もが直面する問題です。でも、この作品は介護問題だけを描いているのではありません。サンドラの人生には、いろんな瞬間があります。思いがけないロマンスの到来があり、そのことにまつわる喜びと苦悩がある。家族もただ悲しんでいるだけではなく、みんなで子どもたちとのクリスマスパーティを楽しむ。そうした人生の日々のひとつひとつが光に包まれていて、生きていることの愛おしさを感じさせます。

かつて哲学の教師だったゲオルグの蔵書を、学生だった女性に引き取ってもらうシーンに、ヒロインの父親に対する愛を感じました。「施設にいる人よりも書棚の方がパパらしい」。娘にとってのゲオルグは知的な人物で、人生を謳歌してきた人。父のそうした面が失われていくことが、サンドラには悲しいのです。でも、彼は本当にいなくなってしまった訳ではない。新しい施設で子どものように歌う父を見て、彼女から流れる涙。悲しみを堪えるのではなく、吐き出して、浄化して、希望を見出そうとする。そんな等身大のヒロインを演じるレア・セドゥの新境地が見えました。

『それでも私は生きていく』
監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー、ニコール・ガルシア、カミーユ・ルバン・マルタン
2022年/フランス
DVD発売中、各種配信中

コラムニスト
山崎まどか

15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。

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