10月某日。曇り時々小雨。
日本から来てくれていた母と、息子を連れて、三世代でLe Doyenné(ル・ドワイヨネ)へ。昨夏ディナーに訪れた以来だ。今回は宿泊して、ゆったりと週末を過ごすことにした。
到着時には小雨がぱらついていたが、部屋の窓辺からシャボン玉をふきながら雨上がりを待ち、外へ出て、広大な自家菜園を散歩。いちご畑で、青いものが多い中から、赤く熟したいちごを見つけるゲームをする。
陽が落ちてくると、空の色が淡い紫のようなピンク色に染まって、すぐに深い青になった。雲の流れも早い。空や土、草木の息吹を、料理だけでなく肌で感じられる、この場所の豊かさに感謝する。
食後に暖炉の前でくつろいでいると、時折スタッフがやってきて薪をくべ、火の粉が舞い上がる。パチパチと燃える音が眠気を誘って、部屋に戻ることにする。
朝食の評判も良いと聞き、満腹なのにもう翌朝を心待ちにしながらベッドに潜る。
10月某日。曇り。
ル・ドワイヨネの朝食に出てきた自家製コンフィチュールがあまりに美味しかったので、忘れられず市販のものを買ってみたのだが、どうしても糖分が多いのが気になる。しかし息子が毎日のようにパンにつけて食べたがるので、ならばと夫がマルシェでいちごを買ってきて、自宅で作ることにした。幼稚園の後、息子と夫が一緒にキッチンに並び、いちごと砂糖を混ぜ、コトコト煮込んで作る。鍋が鮮やかで濃い赤に染まった。最近、以前にも増して夫の料理を手伝いたがる息子は、大きくなったらお菓子のシェフになりたいと言うようになった。
10月某日。曇り。
秋田を拠点にするガラス作家、熊谷峻氏の企画展が開催されると知り、足を運んだ。5年ほど前から彼の作品が好きで、帰国するたびに少しずつ花器を買い集めてきた。パリの自宅にも、小さな一輪挿しを2つ、日本から持ってきている。
彼のガラス作品は鋳造技法が用いられ、鉱物や土が混ざっていて、独特だ。移り変わる光や角度によって、様々な景色を見せるのが魅力的な器なのだが、パリの柔らかな光の下、石灰岩の壁を背景に作品群を見ると、また新しく出会うような印象がある。
清水の舞台から飛び降りる気持ちだったが、自分にとってコレクションの5つ目となる作品、大壺を購入した。器を前にすると、快い緊張感が流れる。花を活けたら、一体どんな表情を見せてくれるだろうか。
10月某日。快晴。
母と、ロダン美術館に。ここ数日曇天が続いていたのに、すっきりとした快晴。秋の光さすロダンの彫刻は艶やかで、美しかった。
翌日帰国する母にパリらしい景色を堪能してもらおうと、アレクサンドル三世橋からセーヌ川を渡って、コンコルド広場まで歩く。母は1ヶ月ほど我が家に滞在したが、ファッションウィーク中は息子のシッターなどをしてくれていたので、あまりパリ観光はできなかったように思う。近所を散歩したり公園に行ったりするだけで充分なのだと言ってくれていたけれど、明日帰ってしまうと思うと、後悔の念に駆られる。
親はいつまでも強くて何でもできて、頼れる存在だと、どこかでそう思って甘えてしまっている自分がいる。自身も親になって、歳も重ねてきて、決してそうではないと知っているはずなのだが。エッフェル塔やセーヌ川を背景に母の写真を撮り、その笑顔を見ると、もっとたくさんいろんなところに連れて行って、優しくできたらよかったと思うのだが、気がつくのがいつも遅いのだ。
10月某日。晴れ。
マルシェで夫が旬のきのこを大量に買ってくる。セップ(ポルチーニ)、プルロット、ジロール、それにシイタケも。
フランスと日本では、並んでいるきのこの種類も好みも、ちょっと異なるようだ。シイタケは最近メジャーになってきて、フランスでも「シイタケ」で通じる。マルシェで隣の人から、「あなた日本人? シイタケってどうやって調理するのがおすすめ?」と聞かれたこともある。逆に、なかなか日本の八百屋では見かけない黒いラッパのようなきのこ、トロンペット・ドゥ・ラ・モールはどうやって食べるのだろうと疑問に思っていたのだが、どうやら他のきのこのようにソテーして、一般家庭の食卓に並ぶものらしい。
今夜は、いろいろなきのこを鱈と一緒にホイル焼きにして食べた。来週はきのこのクリームパスタもいいね、などと夫と話す。
10月某日。晴れ。
パリの隣に、パンタンという街がある。現代美術のギャラリーや施設ができたり、文化の発信地にもなり、近年人が集まってきているエリアだ。市内からのアクセスも、メトロ5番線に乗ればあっという間だ。
週末、パンタンにアトリエを構える陶器のスタジオStudio Racinesのpop-upイベントに急遽、体調を崩した友人の代理で参加することになった。日曜日なので、息子も連れて行った。
母子でのブーケスタンドは5月1日のすずらんの日以来なのだが、半年前と違って驚いたのは、息子が積極的にお客さんに「ボンジュール」と話しかけていき、「これは15ユーロ、これは20ユーロ」「僕のママが作ったブーケです」などと販売してくれたことだ。どちらかといえば(外では)大人しく引っ込み思案な方だったのに、皆に褒めてもらって、自信をつけたようだ。小さなアシスタントはその後、オーナーの愛犬サックスと遊び、ミツロウのシートを巻いて蝋燭にする作り方を教えてもらったり、UNOで遊んでもらったりもして、夜までご満悦だった。
今月の花[野ばら]
秋の枝は、野ばら、鶴梅擬、紫式部やマユミなど、やはり実のついたものに惹かれる。先日、パリのアートウィークでの装花には、野ばらの枝に赤いグロリオサだけを合わせて潔く、一本一本のなりを見極めて、ダイナミックに活けた。
守屋百合香
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris
Text&Photographs: Yurika Moriya