おいしいおはなし 第38回『エルマーのぼうけん』冒険に持って行きたいオレンジ丸ごとゼリー

 物語を通じて、行ったことのない外国の暮らしぶりに触れられることは多いですが、この『エルマーのぼうけん』が見せてくれたのは、外国の色彩感覚だったような気がします。今でも、海外旅行へ行くと、看板やパッケージのその色使いが新鮮で心惹かれるのですが、そういった外国の色彩へのときめきを最初に教えてくれたのが、このおはなしです。
 物語は、エルマー少年がとしとったのら猫と出会い、りゅう(ここはやっぱり、龍でもドラゴンでもなく〝りゅう〟とひらがなで書くのがしっくりきます)の子どもを助けに行くところから始まります。この冒険物語は全3冊にわたりますが、とにかく印象的なのが、りゅうの姿がどんなふうかという描写。としとったのら猫は、エルマーにこんなふうに説明するのです。

りゅうは、ながいしっぽをしていて、からだにはきいろと、そらいろのしまがありましたよ。つのと、目と、足のうらは、目のさめるような赤でした。それから、はねは金いろでした。(20~21頁)

 ドラゴンや龍のたぐいといえば、緑や茶の混ざったようなハチュウ類的な外見をイメージするものだったのに、この〝りゅう〟はなんてカラフルでポップな色柄だこと! その黄色と空色のシマシマに真っ赤をワンポイント使いというコーディネートにときめけば、3冊目の『エルマーと16ぴきのりゅう』で明らかになるこのりゅうの子どもの家族の色柄に、ますます胸躍らされます。みんな真っ赤な爪先を持ち、空色のとうさんりゅうと黄色のかあさんりゅうから生まれた子どもたちは、黄色と空色のシマシマだったり、黄色と空色のブチだったり……。詳細はぜひシリーズ3冊目で読撃(目撃)していただくとして、そんなりゅうたちの姿が、あまりにくっきりとまぶたの裏に残っているものだから、カラー挿絵があったんだと思っていましたが、読み直してみると挿絵はモノクロ。その挿絵に、頭の中で勝手に色を塗って記憶していたようです。それほどまでに、言葉で描かれた色柄は、強烈なインパクトを残したのでした。

 もうひとつ、このおはなしの魅力が数字です。列挙される色柄と並んで、本書にはエルマーが冒険に持って行ったアイテムの数や動物の数など、いろんな数字が登場します。2ダースのキャンディー、サンドイッチは25切れ、トラは7匹、そしてみかんは31個! この31個のみかんとは、エルマーが冒険の食料として「みかん島」で初めにリュックに詰めたみかんの数。それが〈エルマーは、みかんを七つおおいそぎでたべると〉(35頁)〈みかんを八つたべました〉(41頁)〈みかんを四つたべました〉(88頁)と減っていくので、「足りるのかしら?」と、一生懸命数えながら読み進めたものです。
 そうやって数字を追いかけ、色彩にときめきながらページをめくれば、きっとエルマーと一緒に忘れられない冒険をすることができるはずです。
 「それにしても、みかんばっかり食べてて飽きないのかな……?」と、数えながら気になったものですが、みかんはビタミンCたっぷりで疲れも取れるし、果汁たっぷりでのどの渇きもうるおうし、冒険の食料としてはけっこう正解だったのかも……なんて読み直しながら思いつつ、ひと手間加えて、オレンジ丸ごとのゼリーをつくりました。寒天を使っているので溶けにくいですから、リュックに詰めて冒険へ持って行くにも、ぴったりなおやつですよ。

〔材料〕

(オレンジ4個分)
オレンジ 4個
オレンジジュース(果汁100%)  200㎖
粉寒天 小さじ1
砂糖 大さじ2

〔つくり方〕
  • オレンジの座りをよくするため、包丁で底をごく薄く削ぎ落とす。ヘタ側は1/5程度のところで切って、蓋にする。
    果汁をボウルで受けながら、グレープフルーツナイフやキッチンバサミで果肉をくり抜く。最後は果肉が残らないようにスプーンでかき出し、果肉についている薄皮は取り除く。
  • 鍋にオレンジジュースを入れ、粉寒天をふり入れる。混ぜながら弱火にかけ、ふつふつとしてきたら2分ほど加熱する。粉寒天が完全に溶けたら砂糖を加えてよく混ぜ溶かし、2の果肉と果汁を加えて火を止める。
    オレンジを丸ごと包める程度の大きさに切ったラップの上に中身をくり抜いたオレンジの皮の器をのせて、3を注ぎ入れる。オレンジの蓋をのせ、ラップで包んで端を輪ゴムでぎゅっと結ぶ。
  • バットなどにのせ、冷蔵庫で冷やしかためる。

大事なのは、寒天をしっかり煮溶かすこと。人数が多いときはオレンジを横半分に切って、オレンジ1個から蓋なしの器を2個ずつつくっても良いです。

『エルマーのぼうけん』
ルース・スタイルス・ガネット作、わたなべしげお訳(福音館書店)
冷たい雨が降る中、エルマーが出会ったのはとしとったのら猫。その猫から、どうぶつ島に捕らわれているりゅうの子どものことを聞いたエルマーは、りゅうを助けに行くことを決意します。そのおはなしは、この本から始まって3冊にわたって、エルマーとりゅうの冒険が描かれます。1948年にアメリカで刊行されたこのおはなしを書いたルース・S・ガネットは、大学では化学専攻だったそう。鮮やかな色彩感覚や数字へのこだわりは、そんなガーネットならではの表現だったのかもしれません。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子