LIFESTYLEInterviews2025.01.28

In Search of Lost Blue

失われたブルーを求めて

フランス南西部の〈アトリエ・デ・ブルー・パステル・ドクシタニー〉から、植物染めの美しさを発信する母デニスと娘マリアムの物語。

これは母と娘の物語だ。フランス南西部のオクシタニー地域圏は、ホソバタイセイという植物の栽培で知られている。広くはパステルの名で親しまれる染料植物だ。〈アトリエ・デ・ブルー・パステル・ドクシタニー(Atelier des Bleus Pastel d’Occitanie:オクシタニーのブルー・パステル工房)〉には、古くから伝わる天然の染料が入った大きな桶に布を浸し、オリジナルな青で染め上げることに情熱を注ぐ親子がいる。

すべての始まりは一軒の家だった

アメリカで生まれ、ベルギーで育った母親のデニスはずっとアートの世界で働いてきた。フランスに移り住むと、亡き夫とともにオクシタニー地域圏のジェール県、レクトゥールに一軒家を購入。それが人生を左右する大きな買い物となった。夫婦は雨戸に塗られていたオリジナルな青に魅了され、失われた青を求める人生の旅が始まったのだ。
この地方で栽培されるパステルから生まれるその色は、フランス王家の歴史にも刻まれた幻のブルーでありながら、染め物の世界でも絵画においても長らく忘れ去られていた。デニスは失われた青を復活させるため、大学の研究チームに参加。さらには、歴史的建造物と同様に伝統的な色を保存する重要性を訴え続け、その専門性は世界で認められることとなった。

母と娘の手から生み出されるブルー

それから数十年の時を経て、娘のマリアムが母と同じ道を歩み始める。
職人の人生には「同じ日は一日たりともない」と言う。今や個人の依頼からファッションブランド、美術学校、映画や演劇業界まで、毎日さまざまな顧客から大量の注文が入ってくる。大きなアトリエで植物由来の染料に浸けられているのは、寝具メーカーのおしゃれなシーツのセットやファッションブランドから届いた服。世界中から届いた生地を職人の技と正確さで染め上げていくその様子は、まるで現代の錬金術のようだ。数多くの実験を重ね、長い年月を経てようやく息を吹き返したこの技法には、地元の農家から仕入れた新鮮なパステルが使用されている。さらには濾過した水を使用した独自の製法によって、唯一無二なブルーの染め上がりが実現する。
「染料の配合は天候、湿度、水質によって変えています。数値に頼るのではなく、準備の工程から染料への投入、引き出し、乾燥まで一瞬一瞬を観察することが大切なんです」
と娘のマリアム。30代になったばかりの彼女は、時間と手間を要する作業の大変さについて、さらには親子で働く独特な緊張感についても笑顔で話してくれた。
「それぞれに役割があって、結局は補い合っているんです。母は講演会のために各地を飛び回り、私は一日中アトリエで手を動かしている方が好きですから」

この青は守るべき遺産

このアトリエから生まれる作品にはどれも力強さがある。貴重な染料から生まれた色合い、風合い、柄、質感がそれぞれの布を美しく彩り、その価値を一層高めていく。染色家が「maîtres artisans ennoblisseurs(仕上げの名匠)」と呼ばれるゆえんだろう。
母デニスには、植物由来の染め物の美しさを広く知らしめたいという強い思いがある。植物由来の染料は大量生産の工場でも使用が可能で、環境に有害な合成染料に取って代わることができるという。そしてデニスは言う。これ以上伝統的な色が失われないためにも、今こそ天然染料への回帰が必要なのだ、と。

Photograph: Anaïs Kugel
Text: Farah Keram
Translation: Kumi Hoshika
Edit: Sachiko Kawase

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