8月某日。快晴。
夫の故郷である広島に向かう。息子が生まれてから2年越しで、やっと義父母に顔を見せることができた。
義父は花農家を営んでいて、畑を見せてもらいながら育成や出荷にまつわる話を聞くのはとても面白い。早朝、日が昇る前に花を摘まなければならないそうで、今度帰省するときには、私も出荷の手伝いをしたいと申し出た。畑にはちょうど、竜胆や女郎花、吾亦紅などが美しく咲いていた。数年前に訪れたときには植え始めたばかりだと言っていたスモークツリーは、あっという間に立派な大木に育っていた。
8月某日。快晴。
夫が、バターサンドとアイスケーキを作って、地元の広島のパティスリーで限定販売した。バターサンドは、苺×バニラ、レモン、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ×ブルーベリーの4種。夏休みだというのに、できるだけ日本の食材を使いたいと試作から始めてしっかり働いている夫を見て、心底お菓子作りが好きなのだなと思う。
ちなみに、フランスの店ではバターサンドを作っていないので、私も夫のバターサンドを食べるのは初めて。細かい温度調整や技術によってたっぷり空気を含んだバタークリームは驚くほど口溶けがよく、また酸味や苦味を使った複雑な味わいが楽しい。バカンス中ぐらいゆっくりしてほしいと思う反面、次はどんな美味しいものを生み出してくれるのだろうとつい期待もしてしまう。
8月某日。快晴。
20時、新宿伊勢丹の搬入口に集合。翌日から開催される陶器展のため、閉店後に装花をした。数年前のクリスマス装花の仕事以来、ここで設営をするのは久しぶりだ。その時は朝方までかかって大掛かりな装飾をして、帰りにファミリーレストランでオニオングラタンスープを頼んだことを思い出す。つい先刻までの慌ただしい製作現場と、人気の少ないレストラン、窓の外の静かな朝の風景、その間を漂うようにぼんやりしていたこと、そして運ばれてきたスープの湯気が、それらの境目をぼかして一つの現実にならしていった感覚も一緒に思い出して、懐かしくなる。
今回の陶器展は『éphēlis』という香港のブランドによるもので、目を引くだけでなく、どこか親密さを感じる造形美に惹かれる。オイスター(牡蠣)と名付けられた代表作(デザイナー自身の、祖母がよく牡蠣を剥いてくれた記憶がインスピレーションなのだとか)に合わせ、海辺をイメージした装花をした(陶器展は9月6日まで)。
8月某日。雨のち晴れ。
まだ波はあるけれどもやっと暑さのピークを過ぎ、夏の終わりを意識し始める。週末、表参道で、2日間のポップアップストアを開催した。夏の花を中心に、少し秋の気配も感じるラインナップで用意した。それから、まだ海外に行きやすいとはいえない情勢の中、少しでもパリの空気を感じていただきたいと思い、蚤の市でこつこつ仕入れたヴィンテージの花器や雑貨も、花と一緒に並べてお客様を迎えた。
貴重な週末に、沢山の方に足を運んでいただき、本当にありがたい。お一人お一人と話をできる時間は長くはないけれど、束の間の再会や出会いの嬉しさが、一日のうちに胸いっぱいに積もって、大きな糧になる。心地良い日本に帰ってこられて良かった……としみじみ思う瞬間だ。
8月某日。晴れ。
東京のファッションウィーク、通称東コレが始まった。東コレ初日、舟山瑛美氏によるFETICOの初めてのフィジカルショーに伺う機会に恵まれた。
昨今、自分のありのままの身体を愛する「ボディ・ポジティブ」のムーブメントや「セルフ・ラブ(自己愛)」といった言葉は、日本でも定着しつつあるように思う。一方で、それらが商業的に消費されているような、表面を滑っていくような若干もやもやした気持ちも抱えていたが、「Admire Your Own Body」を掲げたFETICOのショーでは、身体のもつ美しさと自由を真に礼讃していて、そんな常日頃の思いを一息に吹き飛ばしてくれたようだった。
[今月の花]カルメンシータ
かわいらしい淡いピンク色と、トゲトゲの実の形状とのギャップがユニークなカルメンシータ。別名、唐胡麻ともいう。同じく夏に旬を迎えるアンスリウムやパフィオなどの蘭類に添えると、華やかさの中にユーモラスな抜け感が生まれる。さらに風船唐綿やグラミネ(穂)を組み合わせれば、硬い質感が多くなりがちな夏の花束にも軽やかさが。
守屋百合香
パリのフローリストでの研修、インテリアショップ勤務を経て、独立。東京とパリを行き来しながら活動する。パリコレ装花をはじめとした空間装飾、撮影やショーピースのスタイリング、オンラインショップ、レッスンなどを行いながら、雑誌などでコラム執筆も。様々な活動を通して、花やヴィンテージを取り入れた詩情豊かなライフスタイルを提案している。
Instagram:@maisonlouparis
MAISON LOU paris
photo&text: Yurika Moriya