おいしいおはなし第63回『フィオナの海』 故郷の島でみんなで囲む海藻のスープ

たとえばハリー・ポッターや、『思い出のマーニー』※のアンナや、『グリーン・ノウの子どもたち』※のトービーや、子どもたちが一人で旅をするところから始まる物語は、その先にわくわくする不思議な冒険が待っているものです。
『フィオナの海』の主人公、真っ赤に燃えるような髪を持ったフィオナの物語は、たった一人で荒れる海を渡る船の甲板に立って行先を見つめているところから始まります。フィオナの一人旅の理由は、都会の暮らしが合わず、おじいさんとおばあさんと島で暮らすため。そして、その視線の先に待つフィオナの冒険は「弟を見つける」ということでした。

フィオナの一家は、お父さんが都会で働くために4年前、スコットランド北西部の小さな島、ロン・モル島を離れました。恐ろしい出来事は、一家が島を離れる時に起きます。小さな弟のジェイミーを乗せたゆりかごが海に流され、行方不明になってしまったのです。以来、家族の誰もジェイミーのことを話しません。でもフィオナは心の中で、弟はこの群島のどこかで生きていると考えていたのです。フィオナの思いは、おじいさんとおばあさんとの暮らしの中で、次第に確信に変わっていきます。

フィオナたちのマッコンヴィル家には、古くから伝わるおはなしがありました。かつて、よそ者の黒髪の女性を妻に迎えた人がいて、以来何世代かに一人、黒髪で黒い瞳の子どもが生まれ、その子は誰よりも海と親しく育ち、誰よりも腕利の漁師になるのだということ。代々受け継がれてきたゆりかごは舟のような形をしていて、ジェイミーをのせたゆりかごがそれであったこと。おじいさんからこの話を聞いて、フィオナは考えます。「海がジェイミーを離さなかったんだとしたら、どこか、安全なところで守っていてくれるはずだわ」(P.60)。ジェイミーは黒い髪と黒い瞳の子どもでした。

フィオナはおじいさんの漁について行くついでに、故郷のロン・モル島に久しぶりに上陸します。もう誰も住んでいない島は、相変わらず美しく、でもひと気なくうちさびれています。でもそこに、フィオナはジェイミーの痕跡を見つけたのです。なんとしてでも弟を見つけなくちゃ……そんなフィオナの思いに気がつき、導き手となるのがあざらしたち。なかでも、族の長(チーフタン)と呼ばれる大きなあざらしは、フィオナのことを最初の船旅の頃から観察していました。そして、フィオナをロン・モル島へ、弟のジェイミーの方へ導きます。真っ黒な瞳は雄弁で、時には尾びれで水面を叩いてフィオナに語りかけます。

あざらしたちがジェイミーをフィオナたちのもとに帰そうとするシーンは幻想的で感動的です。おじいさんが驚いたように、彼らには分かっているのです。怖がって海に戻ろうとするジェイミーをそっと押し留め、やさしく陸の方へ誘います。その時、ジェイミーの心を溶かしたのは、「ジェイミーちゃん、おいで」というおばあさんの小さな一言でした。

久しぶりに囲んだ故郷の島の食卓には、おばあさんとフィオナが作ったマッコンヴィル家伝統の海藻のスープがありました。昔むかし、黒髪の妻が作って、代々受け継がれてきたレシピです。残念ながら、マッコンヴィル家の海藻スープがどんなものだったか詳細は描かれていません。例えば……酪農の盛んなスコットランドですからミルクを使って、海藻の他にも海の恵みを入れて、こんなスープはどうでしょう。ほっとお腹の底から温まって、海の香りが心をフィオナたちの暮らす北の島へと誘ってくれる、そんな味です。

※『思い出のマーニー』(ジョーン・G・ロビンソン著)と『グリーン・ノウの子どもたち』(ルーシー・M・ボストン著)は、どちらもイギリスの児童文学。

〔材料〕

(2~3人分)
青のり(生)……15g
(乾燥青さの場合は3~4g)
あさり(殻つき)……150g
ベーコン……1枚
玉ねぎ……小1/2個
じゃがいも……小1個
水……200ml
酒……小さじ1
小麦粉……小さじ2
牛乳……100ml
生クリーム……50ml
バター……小さじ1
オリーブ油……小さじ2
塩……少々

〔つくり方〕
  • 下ごしらえ。
    あさりは砂抜きをする。玉ねぎとベーコンは1㎝角に切る。じゃがいもは8㎜角程度に切って水にさらす。青のりはさっと水洗いして塩を流し、ざるにあげて水けを切る(乾燥青さの場合は、水で戻してから水けを切る)。
  • 出汁をとる。
    あさりはよく洗ってから鍋に入れ、水、酒を加えて弱火にかける。あくを取りながら貝が開くまで加熱する。貝が開いたら火を止め、ボウルとざるを使って、出汁と貝を分ける。貝は粗熱が取れたら殻から身を外す。出汁は、目の細かい茶こしなどで濾して小さい貝殻などをのぞく。
  • 具を炒める。
    鍋にバターとオリーブ油を入れて弱火にかける。バターが溶けてきたら、❶の玉ねぎとベーコンを加えて炒める。玉ねぎがしんなりしてきたら小麦粉を振り入れ、焦げないように木べらでよく混ぜながら炒める。油分と小麦粉がしっかり馴染んだら、❷の出汁を少しずつ加えてよく混ぜながらのばす。ボウルの底に残った砂が入らないよう注意する。
  • 仕上げ。
    あさりの身とじゃがいも、牛乳を加える。煮立たせないように気をつけて、じゃがいもに火が通るまで煮る。最後に、生クリームと青のりを加えてサッと混ぜる。味を見て、必要であれば塩で味を調えて、できあがり。

生の青のりは冬から春にかけてが旬。香り高くとてもおいしいです!ぜひ使ってみてください。

『フィオナの海』
ロザリー・K・フライ著、矢川澄子訳/集英社
故郷ロン・モル島の近くの大きな島で暮らす祖父母の元で過ごすことになったフィオナ。行方不明の弟は、この海のどこかで生きている。そう信じるフィオナの思いはやがて従兄弟のローリーやおじいさん、おばあさんを動かし……。ケルトの民間伝承を元にしたファンタジー。

料理と文:本とごちそう研究室
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子