おいしいおはなし第52回『スパゲッティがたべたいよう』自分でつくって誰かと食べたらもっとおいしい

真っ白くてふわふわボディのおばけといえば、世界的に有名なのは『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンかもしれませんが、日本の子どもたちやかつて子どもだった大人にとってはもう一人、忘れちゃいけないマシュマロみたいなおばけがいます。小さなそのおばけは、『魔女の宅急便』の角野栄子さんが生み出した、おばけのアッチ、コッチ、ソッチです。アッチはレストランの屋根裏に住んでいるくいしんぼうのおばけ。コッチは床屋さんに住んでいるおしゃれなおばけ。そしてソッチは飴屋さんに住んでいる歌の好きなおばけ。彼らが活躍する「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけシリーズ」は、1979年のデビューから、今もなお新刊が毎年1冊発表されているロングセラーで、角野さんのライフワークとして知られています。

記念すべき第1冊はアッチの登場する『スパゲッティがたべたいよう』です。ふわふわなマシュマロボディが魅力ではあるものの、おいしいものばっかり食べているものですから《アッチは、小さいおばけの男の子にしてはふとりすぎ。おもいおなかをつきだして、ようじで口をちゅっちゅっ。いいきもちでひとやすみです。》(P.8)と、メタボおじさんのような一面も。
そんなアッチがある日出会うのが、お料理上手の女の子、エッちゃんです。夕食前の散歩を楽しんでいるアッチがいい匂いを嗅ぎつけて、エッちゃんのつくる晩ごはんを横取りしようとするのです。が、このエッちゃんは肝が据わっていて、アッチのおばけとしてのおどしを軽やかにユーモアたっぷりにかわしていきます。アッチには申し訳ありませんが、圧倒的にエッちゃんの勝ちです。
エッちゃんが素敵なのは、そのあと。やさしくアッチに言います。《ねえ、アッチくん。ほしいときは、おどかしたってだめなのよ。》(P.62)
そうしてアッチはエッちゃんに《ごちそうしてください。》とお願いして、晩ごはんをごちそうになります。それは、お日さまいろのトマトソースがたっぷりかかったスパゲッティです。町の高級レストランでいつもおいしいものを食べていたアッチですが、今まで食べた中で一番おいしいスパゲッティでした。誰かが自分のためにつくってくれたお料理を、テーブルに座って一緒に食べるという幸せ。いつも人を怖がらせては盗み食いしていたアッチにとって、初めての体験だったのです。
アッチがエッちゃんに教えてもらったことはもう1つあります。それは自分でお料理をつくる楽しさです。そうして「くいしんぼうのおばけ」は 「お料理の上手なおばけ」になります。そしてコックさんとしていろいろなおいしいものをつくっていくのですが、アッチがどんなお料理をつくるのかはぜひシリーズを読んで味わってあげてください。そして、アッチが最初に覚えたこのお日さまいろのトマトソースのスパゲッティを、ぜひ家族や友だちと一緒につくって食べて、おいしい時間を過ごしてください。

〔材料〕

(2人分)
トマトソース
 トマト 400g(中3個程度)
 玉ねぎ 1/2個
 にんにく 1片
 トマトジュース 100㎖
 チキンストック 100㎖
 オリーブ油 大さじ1
 塩 小さじ1/2
 砂糖 小さじ1/2
 中濃ソース 大さじ1
 ローリエ 1枚

スパゲッティ  180g
塩 適量
オリーブ 油 小さじ2
グリーンピース 3房分(10粒ほど)

〔つくり方〕
  • 下準備。
    トマトはへたを取り、1cmの角切りにする。玉ねぎとにんにくは皮をむき、みじん切りにする。
  • 炒める。
    鍋にオリーブ油とにんにくを入れ弱火にかけ、にんにくの香りが立つまで炒める。玉ねぎを加えてやや火を強め、焦がさないように木べらで混ぜながら5分ほど炒める。トマトと塩、砂糖も加えてつぶしながらさらに5分ほど炒める。
  • 煮込む。
    ❷にトマトジュース、チキンストック、中濃ソースとローリエを入れてふたをし、20分煮込む。ふたをあけて中火にし、時々混ぜながら最初の量の半分くらいまで煮詰めて味を見る。
  • ゆでる。
    大きめの鍋にたっぷりお湯をわかし、塩を加えてスパゲッティをゆでる。この時、鍋のはじのほうでグリーンピースを1分ほどゆでる(小さめのざるを使ってゆでるとよい)。スパゲッティはゆであがったらさっと湯を切って鍋に戻し、熱いうちにオリーブ油をからめて皿に盛る。
  • 仕上げ。
    スパゲッティの上に❸をたっぷりかけ、ゆでたグリンピースをちらしてできあがり。

『スパゲッティがたべたいよう』
角野栄子 作、佐々木洋子 絵(ポプラ社)
アッチは町一番のレストランの屋根裏部屋に住むおばけの男の子。いつもレストランの人を怖がらせて、いろんな料理の一番おいしいところを食べてお腹いっぱい。ある夜、食事前の散歩に出かけたアッチはいい匂いに導か れ、のぞいてみると女の子が食事の支度をしているところ。「今夜はあれを食べよう」と決め、あの手この手でその女の子、エッちゃんを怖がらせようとするけれど、一向に効き目がなく、怒ってその姿を現してエッちゃんのスパゲッティを横 取りしようするアッチ。ところがエッちゃんは動じずに、隣の部屋へ行くと……。アッチがエッちゃんとの出会いで新しい自分を見つけるシリーズ第1作。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子