おいしいおはなし第46回『小さい魔女』 寒い日が楽しみになる焼きリンゴ

おはなしの世界には、魔女が主人公の物語がたくさんあります。魔女の姿や性格もいろいろです。映画『オズの魔法使』(1939年)には、お姫様のような佇まいのいい魔女と、顔が緑色で真っ黒い服を着た悪い魔女が登場しました。今回紹介する『小さい魔女』の主人公は、ぼさぼさの髪にとんがった鼻でホウキにまたがって、いわゆる魔女の王道のイメージです。でも、性格はだいぶん個性的です。
彼女は魔女と言っても、《年はたったの百二十七でしたがね、百二十七なんていえば、魔女のなかまでは、まだ、ひよっこみたいなものなんです》(5頁)。面白いことにこちらの魔女の世界も年功序列で、若手の小さい魔女は年に一度の魔女たちの集まり「ワルプルギスの夜」に参加させてもらえません。でも小さい魔女は、どうしてもワルプルギスの夜に参加したくて、こっそり会場のブロッケン山に行くのですが、大きい魔女たちに見つかって吊るし上げられてしまいます。そして、今後参加したいなら1年後の試験に合格すること、という条件を課されます。そんなわけで「いい魔女」になるために奮闘する小さい魔女の一年間が描かれるのが、このおはなしです。

先ほど紹介した表紙に描かれている小さい魔女を、子どもの頃は「いかにも魔女らしいおばあさん」だと思っていました。でもおはなしを読んでいくと、この魔女がそんなにおばあさんでもないような気がしてくるのです。確かに魔女としては若いわけで、しかも彼女は好奇心が旺盛、楽しいことが大好きで退屈が大嫌い、そしてこうるさい大きい魔女の目をうまいことかわしながらルールを破って……と、「大きい魔女」を「大人」と言い換えれば、ほら、どこかのティーンエイジャーの日常のようではありませんか! そんなわけで小さい頃は、とにかくこの痛快で元気な小さい魔女が大好きでした。大人になってまじまじと表紙を眺めると、そこに描かれている小さい魔女は思っていたよりも若々しくて、ページを開くと相変わらず痛快に元気に日々を過ごしています。
そうそう「ああ、魔法が使えたらここに座ったまま欲しいものに手が届くのに〜」と思ったことはありませんか? 小さい魔女はもちろんそんなふうに便利に魔法を使っています。とても寒い冬の日、小さい魔女は暖かいストーブの前に座ったままパチンと指を鳴らします。《すると、たちまち、リンゴが二つ三つ、貯蔵室からころがってきて、天火の中にぴょんと飛び込みます》(102頁)。できあがるのは、とろりと甘い、焼きリンゴ。これこそ寒い日を楽しく過ごすための、魔法です。

〔材料〕

(作りやすい分量)
リンゴ(紅玉など)……6個(1個=約180g)
バター……60g

三温糖……大さじ3

レーズン……40〜50g
シナモンパウダー……少々

〔つくり方〕
  • 下準備。
    リンゴはよく洗い、水気をふいて芯をくりぬく。オーブンは200°Cにあたためておく。
  • 混ぜる。
    ボウルにバター、三温糖、シナモンパウダーを入れてフォークなどで混ぜ合わせる。均一に混ざっていなくても大丈夫。
  • 詰める。
    ①のリンゴのくりぬいた部分に②とレーズンをかわりばんこに詰め、天板に並べる。
  • 焼く。
    オーブンに③を入れ、200°Cで20分ほど焼く。途中で何度かオーブンを開け、天板にたまったソースをリンゴにかける。リンゴの皮に少し割れ目が入るくらいまで焼けば、完成。

焼いている途中でソースをかけてあげると、リンゴにつやが出ておいしそうに仕上がります。オーブンの中や天板、ソースはとても熱いのでやけどをしないように気をつけましょう。

『小さい魔女』
オトフリート・プロイスラー作、ウィニー・ガイラー絵、 大塚勇三訳(学研プラス)
たった127 歳の小さい魔女が、カラスの相棒アブラクサスと一緒に「いい魔女」になるための修行に励む一年間。魔女の暮らすドイツの森の四季折々の様子や、村で催される市やお祭りの様子など、楽しくて興味津々の日々が描かれます。 そのなかで出会う人々に、小さい魔女は魔法を使って困りご とを解消してあげたり、願いを叶えてあげたり「いい魔女」になるべく努めるのでが……。最後のワルプルギスの夜の試験で、大どんでん返しが起こります! 作者は『大どろぼうホッツェンプロッツ』で知られるプロイスラー。ユーモラスで痛快なストーリー展開は『小さい魔女』にも健在です。

子どもの文学のなかに登場する(あるいは登場しそうな)おいしそうな食べ物を、読んで作って紹介している連載「おいしいおはなし」。第40回までの連載をまとめた単行本『おいしいおはなし』(グラフィック社)は、全国書店または各オンライン書店にて発売中。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子