おいしいおはなし 第39回『クマのプーさん』プーさん憧れの桃色の砂糖衣のケーキ

クマのプーさんは映画にキャラクター商品に、世界的人気を誇るクマですが、本を読んでそのユニークで愛らしい性格を知れば、もっともっと好きになってしまうはず。そして、もうひとりの主人公、クリストファー・ロビンとのきずなに、きっと心打たれることでしょう。
 クリストファー・ロビンは、作者ミルンの息子。このおはなしは、父であるミルンが息子と彼の仲良しのテディ・ベアのプーのために話してあげたおはなしで、プーのほかに小さなコブタやトラのトラー、ロバのイーヨーなど、クリストファー・ロビンと彼の仲良しのぬいぐるみたちが空想の森の中で繰り広げるさまざまなできごとを描いています。

おいしいおはなし2-2

 おはなしの中で最も知られているのは、やっぱり、「食べ過ぎてウサギの家の玄関の穴に身体がはまって身動き取れなくなってしまったプー」のエピソードでしょう。クリストファー・ロビンはその姿を見て、まず「ばっかなクマのやつ!」と言いながらも、愛情深くプーのダイエットにつき合います。
 また、探検に出かける身支度をするときにも、ふたりは力を合わせます。大雨の中でコブタを助けに行くときにも、ふたりは知恵を合わせます。
 ときに、プーから素晴らしいアイデアが飛び出すこともあります。するとクリストファー・ロビンは、〈……これがほんとに、あんなにながいあいだ、じぶんが知っていた、そして、かわいがっていた、あの頭のわるいクマなのかとおどろきながら、じっとプーを見つめるばかりでありました〉(169頁)と驚き、感動したりもします(余談ですが、この驚きは著者が幼い息子の成長に気づいたときの気持ちそのものだったのかもしれませんね)。
 クリストファー・ロビンにとって、プーさんは、かわいくて仕方ない大切なクマであり、尊敬できる友であり、そしてきっと、自分自身の分身のようなものでもあるのだと思います。そういう大切な相棒が幼いころの自分にもいたことを、読む人は懐かしく思い出すかもしれません。
 おはなしの最後に、クリストファー・ロビンとプーは約束します。

「プー、ぼくのことわすれないって、約束しておくれよ。ぼくが百になっても。」
プーは、しばらくかんがえました。
「そうすると、ぼく、いくつだろ?」
「九十九。」
プーはうなずきました。
「ぼく、約束します。」と、プーはいいました。
(390頁)

 この約束より前、大切なプーのために、クリストファー・ロビンはお茶会を開きます。本にそのときのメニューは書かれていませんが、テーブルにはきっとプーの好物が並んだことでしょう。たとえば、〈桃色のお砂糖のついてる、あのケーキなんてもの、出るのかな〉(174頁)と、プーがうっとり夢見たお菓子も。

〔材料〕

(直径15㎝の丸型1台分)
ケーキ
 薄力粉 90g
 ベーキングパウダー 小さじ1/2
 卵 3個
 三温糖 70g
 くるみ 70g
 バター(無塩) 70g
アイシング
 粉砂糖 60g
 水 小さじ1と1/2
 ラズベリージャムのシロップ 少々
飾り用の形のよいくるみ 5〜 6個

下準備
・オーブンは170℃に温めておく。
・型にオーブン用シートを敷いておく。
・バターは湯煎にかけて溶かしておく。

〔つくり方〕
  • 70gのくるみと飾り用のくるみをフライパンで軽く炒る。飾り用以外のくるみはフードプロセッサーか包丁で細かくくだく。薄力粉とベーキングパウダーは合わせてふるう。
  • 大きめのボウルに卵を割り入れ、三温糖を加えて泡立て器でよくほぐす。くだいたくるみも加えてさらによく混ぜる。
  • ふるっておいた粉類を再度ふるいながら2に加える。ゴムベラで全体を底からすくい上げるように2、3回混ぜたら、溶かしたバターを加えてざっくりと混ぜる。
  • 型に3を流し入れ、型を少し持ち上げテーブルに1、2回落として空気を抜く。
  • 生地を流した型を天板にのせ、オーブンで35~45分焼く。竹串を刺して何もついてこなければ焼き上がり。網などにのせて冷ます。
  • ケーキを冷ましている間にアイシングを作る。ボウルに粉砂糖を入れ、水を少しずつ加えてよく混ぜる。ラズベリージャムのシロップを加えて混ぜ、好みの色にする。
  • 型からケーキを外し、オーブン用シートをはがす。バットなどの上にケーキを置いた網をのせ、上からアイシングを回しかける。仕上げに、飾り用のくるみをのせる。

ケーキの生地をつくるとき、粉類を入れたら混ぜ過ぎは禁物です! さっくりと混ぜたほうが軽く仕上がります。アイシングが残ったら、小さく切ってよく焼いた薄切り食パンに塗ると、ラスク風のおやつになりますよ。

『クマのプーさん/プー横町にたった家』
A・A・ミルン作、石井桃子訳(岩波書店)
ある日、「すみませんけど、おとうさん、プーにひとつしてやってくれない?」とクマのぬいぐるみを抱えたクリストファー・ロビンが作者である父親におはなしをお願いしたことから物語は始まります。それはクマのプーさんとクリストファー・ロビン、そして森の仲間たちの日々のこと。プーは主人公的存在でありますが、気の弱いコブタや年寄りでちょっと陰気なイーヨー、わんぱくなルーとおかあさんのカンガなど、どのキャラクターも愛らしくユニーク。あとがきに記された、登場人物たちのその後のエピソードも必読です。

文と料理:本とごちそう研究室(やまさききよえ・川瀬佐千子) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子