おいしいおはなし 第37回 『いやいやえん』子ぐまのこぐちゃんと食べたいピーナッツおこわのおにぎり

 〈ちゅーりっぷほいくえんには、子どもが三十人います。その中の十八人は、ほしぐみ、十二人は、ばらぐみです。ほしぐみというのは、らいねん、がっこうへいくくみですから、みんないばっています〉(1頁)と始まるのは、真っ赤な表紙が印象的な本『いやいやえん』です。
 この本のページをめくるのが楽しい理由は、ふたつあります。ひとつは、各ページに添えられている挿絵。子どもたちや登場人物が表情豊かにのびのびと動き回っている絵を追いかけて行くだけでも、おはなしの世界を堪能できます。この絵を手掛けている大村百合子さんは作者の中川李枝子さんと実の姉妹。あるインタビューでおふたりが楽しそうに子ども時代の思い出話をされていたのが印象的で、おはなしと絵がぴったり寄り添っているのは、ふたりが一緒に空想力や想像力を培ってきたからなのかもしれないと思わされます。
 もうひとつの魅力は、その空想力から生まれたストーリー。おはなしは、子どもたちの日常から自由に広がっていきます。つみきの船でくじらとりに出かけたり、子どもたちを食べようとしたおおかみと対決したり、黒い山で鬼の男の子とおしゃべりしたり……というと、ファンタジー冒険物語に聞こえるかもしれませんが、主人公のしげるは、賢く危機を乗り越えたりもしないし、勇敢に戦ったりもしないし、王様からほうびをもらったりもしません。代わりに、言うことを聞かずに痛い目にあい、反省するものの、「やってはいけないよ」「こうしなさいね」という大人との約束をケロッと忘れて好奇心に誘われ、また知らず冒険に足を踏み込みます。そんなしげるたちの言動は、ときに憎たらしくもありますが、素直で一生懸命。

 そんな「こういう子いるいる!」というリアルな子どもの姿が大人にとってはおもしろいのですが、子どもたち自身がこの本を好きなのは、やんちゃ坊主への憧れ……だったりするのかもしれませんね。
 そんなしげるにまったく動じず一枚上手な対応をする、おかあさんやはるのせんせいも魅力的です。たとえば、はるのせんせいが「ほいくえんにいってもいいですか?」とお手紙をもらい「どうぞいらっしゃい」と呼んだ〝やまのこぐ〟ちゃんが、実は〝子ぐま〟だったことが分かったとき。はるのせんせいはびっくりしながらも優しく迎えてくれます。読んでいると、こぐちゃんと一緒にほめられたような気がして、つい笑顔になってしまいます。

「まあ。子ぐまのこぐちゃんだったの。」
 はるのせんせいは、こぐのあたまを、なでました。
「おてがみ、じょうずね。」
「うん、はるのせんせいも、おてがみじょうずだね。」
「おかあさんに、おくってきていただいたの?」
「いいえ、ひとりできたの。ままは、とても大きいから、ほいくえんにはいれないでしょう。」
「こぐちゃんは、おりこうね。」
 こぐは、ほめられてうれしくなりました。(78~79頁)

 転入生のこぐちゃん、ちゃんとお弁当も持ってきています。それは、山の子ぐまらしい、笹の葉に包まれた、木の実入りのおにぎりです。とてもおいしそうに思われたので、ちょっと真似して、木の実の代わりにピーナッツを入れたおにぎりをつくりました。

〔材料〕

(約10個分)
米 2合(300g)
もち米 1合(150g)
水 3合(540㎖)
ピーナッツ 60g
塩 小さじ1と1/3

〔つくり方〕
  • 米ともち米は合わせて研ぎ、たっぷりの水に30分ほど浸したらザルに上げて水をきり、炊飯器の釜に入れる。分量の水とピーナッツ、塩を加え、軽く混ぜて炊く。
  • 炊き上がったらさっくりと全体を混ぜ、手水をつけながら好みの大きさににぎる。

お好みで、炊き上がったごはんにごま油少々を混ぜてもおいしいです。もち米入りのごはんは、冷めてももっちりしているので、お弁当にもぴったりです。

『いやいやえん』
中川李枝子作、大村百合子絵(福音館書店)
ちゅーりっぷほいくえんに通うしげる。毎日お友だちとほいくえんでいろいろなことをして過ごしています。何べん怒られても、自分の好奇心が動かされたら大人の注意をすっかり忘れてしまいます。その結果、思わぬ冒険をすることになったり珍事件を起こしたり……。そんなしげるの毎日を描いた7つのおはなしが、この本には収録されています。この本に登場するおおかみやこぐちゃんは、この本のあとに出版された『ぐりとぐら』にも登場します。ぜひ合わせて読んで、両方に登場するキャラクターを見つけてください。

文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子