おいしいおはなし 第34回『チョコレート戦争』子ども心も魅了するチョコレートつやめくエクレール
シュークリームにショートケーキ、モンブランにバウムクーヘン……。昔ながらの洋菓子の名前は、耳にも甘く響きます。そんな魅惑の洋菓子をつくっている人気店を中心に、子どもたちvs.大人の戦いの一部始終を描いたおはなしが『チョコレート戦争』です。
舞台となる「金泉堂」は、地方の名店としてガイドブックにも載っていそうな洋菓子店。その本格的なことといったら、シュークリームも「シュー・ア・ラ・クレーム」とフランス語で売っているくらいで、それらを大人たちは「東京でも買えないほどの味」と誇りにしています。もちろんそれは町中の子どもたちにとっても同じです。
おかあさんは、勉強のにがてな子どもたちをはげますのに、
「こんど、百点をとったら、金泉堂の洋菓子を買ってあげますからね」
と、いった。このことばは、ほかのどんなことばよりもききめがあった。(29頁)
というのですから、「金泉堂の洋菓子」がどれほど子どもたちの憧れの存在だったか分かるというものです。
その金泉堂のショウウィンドウを割ったと勘違いされてしまうのが、主人公の明と光一。やっていないという説明を信じてもらえないまま、店員に引っ張られて支配人のところへ、さらには社長の前にまで連れて行かれ、一方的にやったと決めてかかる大人の前で、うまく説明ができません。そして、ただ黙って唇を噛んでいたふたりのショックやもどかしさは、怒りに変わっていきます。明はそれを〈ぼくたちの名誉をきずつけられたからだ〉と考え、光一は〈戦うんだよ、あの、金泉堂のわからずや連中と〉(ともに69頁)と決意するのです。
読む人はきっと、子どものころに「大人はどうして話を聞いてくれないのか」と一度ならずも悔しく思ったことを思い出し、明と光一にエールを送りつつページをめくることでしょう。
でも、簡単には「子どもの勝利!」とはなりません。それがこのおはなしのおもしろいところ。明と光一がそれぞれのやり方で別々に戦いを挑むのも大きなポイントですが、金泉堂の社長の金兵衛さんの若いころの苦労話も描かれていたり(読んでいると「この社長はただの分からず屋じゃなさそう」と思わされます)、年長の子どもたちが明や光一の知らない陰で動いて状況を変えたり、一枚上手な大人の反撃があったり……と、登場人物もシーンも多く、それぞれのエピソードや人物が絡み合いながら物語がどんどん展開していくのが魅力です。
子どもと大人の戦いをドキドキしながら見守っていく合間には、甘い洋菓子もいろいろ登場してうっとりさせられます。明の好物はエクレール。エクレアの金泉堂流の言い方です。とろけるクリームがたっぷり詰まったエクレールを上手に食べるには、明のやり方を真似してみてくださいね。
〔材料〕
(8個分)
シュー生地
水 50㎖
バター(無塩) 20g
薄力粉 30g
卵 1個
クリーム
卵黄 2個
砂糖 40g
薄力粉 20g
牛乳 100㎖
生クリーム 50㎖
製菓用チョコレート 50g
〔つくり方〕
- クリームをつくる。ボウルに卵黄と砂糖を入れて、泡立て器ですり混ぜる。薄力粉をふるいながら加えて混ぜ、60℃程度に温めた牛乳を少しずつ加えながら、なめらかになるまで混ぜる。
- なめらかになったらザルで漉し、小鍋に入れて中火にかける。焦げつかないように泡立て器で絶えず混ぜる。ツヤが出て、もったり重くなってきたら火を止め、手早くボウルに移して冷ます。
- 完全に冷めたら、別のボウルで角が立つ程度に泡立てた生クリームを加えて、ゴムベラでよく混ぜる。空気に触れないようにラップを表面に密着させ、冷蔵庫で冷やす。
- シュー生地をつくる。オーブンを200℃に温め、天板にオーブン用シートを敷く。薄力粉はふるう。卵はよく溶く。
- 小鍋に水とバターを入れて沸騰させる。弱めの中火にしたら、薄力粉を加え、木ベラで一気にかき混ぜながら1分ほど加熱する。全体がまとまってきたらよく混ぜながら、さらに1分ほど加熱する。
鍋を火から下ろして濡れフキンの上にのせ粗熱を取りながら、溶いた卵を4~5回に分けて加え、その都度、木ベラでよく練る。 - 木ベラから生地がゆっくり落ちるくらいのかたさになったら、1㎝の口金をつけた絞り袋に入れる。天板に、間隔を空けながら8㎝ほどの長さに絞り出し、全体に霧吹きで水を吹きかける。温めたオーブンで15分焼き、温度を150℃に下げてさらに5分焼いたら、天板から網に移して冷ます。
- 製菓用チョコレートをボウルに入れ、湯煎にかけて溶かす。
- ❸のクリームを絞り袋に入れる。シューの横半分に切り目を入れ、クリームを詰める。シューの上面を溶かしたチョコレートに軽く浸して乾かす。
チョコレートは湯煎するときに湯気や水気が入ってしまうと、ツヤがなくなってしまいます。ボウルも水気をしっかりふき、お湯の鍋より少し大きいものを使うと安心です。
文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ)
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子