おいしいおはなし 第32回『ドリトル先生航海記』楽しい夕ごはんに自家製ソーセージ

 動物の言葉を、しかもさまざまな生き物の種類別に研究して話せるようになったという人物が登場するおはなしといえば、ドリトル先生とその冒険の物語。ドリトル先生は、犬や猫、鳥たちはもちろん、小さな昆虫や魚たちの言葉も研究し、習得しているのです。でも、いったいどうやって?
 そのコツが語られているのが、シリーズ2作目の『ドリトル先生航海記』。語り手で助手のスタビンズ少年が「先生のように動物たちの言葉を学びたい」と、先生の家族のひとりであるオウムのポリネシアに相談したときのこと。人間語(英語)もできる賢いポリネシアの答えはこうでした。

鳥や動物の、ごくこまかいところにも注意をはらうことがたいせつです。これがつまり観察力というものです。歩きかた、頭の動かしかた、羽ばたき、においをかぐときの鼻の動かしかた、ひげの動きぐあい、尾のふりかたなど。(中略)いろいろの動物たちは、たいていは舌では話をしないようです。舌のかわりに、呼吸や、尾や、足を使います。(58頁)

 人間は言葉を得た分〈舌のかわり〉のコミュニケーション能力を失ってしまったようで、たくさんのサインを見落としている気がします。ポリネシアの言うように観察力を育めば、いろいろなものが見えて、世界がぐんと広がっていくのかも……そんな気がしてきます。

 さて、『ドリトル先生航海記』ではそのタイトルどおり、ドリトル先生たちはある島を目指して船で海を渡ります。その道中のさまざまな事件は、助手のスタビンズくんによって、彼の感じたことや思ったことなどを織り交ぜながら、丁寧に綴られていきます。
 このスタビンズくんという素晴らしい語り手の存在もまた(「シャーロック・ホームズ」シリーズの語り手であるワトソン博士のように)、このおはなしの大きな魅力です。たとえば本の冒頭では、先生のおうちの台所をこんなふうに表しています。〈それは、とてもすてきな台所でした。(中略)世界じゅうでいちばんりっぱな食堂よりも、食べ物のおいしい場所だと思いました〉(38頁)
 確かに、家族や友人とおいしくごはんを食べられる場所は、世界でいちばん素敵な場所です。ちなみに、このときにドリトル先生がスタビンズくんにつくってくれたのは、ソーセージ料理。イギリスでソーセージ&マッシュといえば、今も人気の定番料理です。買ってきたソーセージもおいしいですが、手づくりもまた楽しいもの。一緒につくって一緒に食べれば、台所はますます素敵な場所になるはずです。

〔材料〕

(5本分)
豚バラ肉(薄切り) 500g
塩 小さじ1/2
こしょう 少々
ナツメグパウダー 少々
粉ゼラチン 小さじ2

〔つくり方〕
  • 豚肉は3~4㎝幅に切ってから、フードプロセッサーか包丁でたたいて粗めの挽き肉にする。
  • ボウルにすべての材料を入れ、粘り気が出るまでよくこねる。
  • ❷を1/5量ずつラップの上にのせ、それぞれ棒状に形を整える。ラップでくるくる巻いて両端はぎゅっとねじり、輪ゴムで結ぶ。残りも同様に巻いて、冷蔵庫で1時間ほど置く。
  • 冷蔵庫から取り出した3のラップをはがし、アルミホイルで包み直し、フライパンに並べる。中火にかけて蓋をし、途中返しながら15分ほど蒸し焼きにする。

蒸したじゃがいもに塩とたっぷりのバターを混ぜたマッシュポテトを添えて、豪快にどうぞ!

『ドリトル先生航海記』
ヒュー・ロフティング作、井伏鱒二訳(岩波書店)
ドリトル先生の評判を耳にし、怪我をしたリスの治療をお願いしようと、同じ町に住むトミー・スタビンズ少年は先生の家に向かいます。そして、自分も動物学者になりたいと助手になったスタビンズくん、さっそく先生と南太平洋のクモザル島へ向けて航海に出ることに。航海の様子や島でのできごと、そして最後に先生たちが帰国する方法も奇想天外で、最後の最後までワクワクが止まりません。作者ロフティングによる味のある挿絵も、本シリーズの大きな魅力です。

文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ) 
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子