続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilKJAPON webで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。その様子を短期連載として数ヶ月間、お届けします。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。
前回の手紙はこちらから

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第4回 「スウェーデンの自然の花は自分のものではないという考え方」
(山野・アンダーソン・陽子→長島有里枝)

有里枝さんへ 

こんにちは。

お庭問題、深いですね。
「ライラックを思うと金木犀」って言うの、分かります! 
私も日本で金木犀の香りをかぐとなぜかスウェーデンの初夏のライラックを思い出します。花のビジュアルから想像できない独特な香りに脳が反応してるのかも。

今週は夏至が近くて夜中まで明るいので、自然の中に身を置きたくなります。うちには「庭」と呼べるものがなくて、白樺林の中にあるアパートなので、あるのは木ばかりです。エルダーフラワーとスグリ、カシス、ラズベリー、ブルーベリー、チェリー(直径6mmぐらいの酸っぱいやつ)はあります。

田舎に住んでいた時は、森の花を摘んでお家に飾ったりしていたこともあったけど、ストックホルムに来て近所のおばあさんに「自然の花を摘んではいけないのよ」と教わってから摘むのをやめました。自然は自分のものではないという、スウェーデンの暗黙のルールに適応してきた気がします。例えるなら、森の花は、街路樹のような感じかな。……ん? ちょっと違うかも。でも、「自分のものではない」っていうのは似ている気がします。

息子が産まれる随分前のことだけど、深い森の中に住む義父が、「森で珍しい花を見つけたから見せたい」と言って、わざわざ車で15分の所に住む友人に私用の長靴を借りに行ってくれて、完全装備でその花の咲く所まで案内してくれたことがありました。枝をかき分け、泥濘みをグチョグチョと30分ほど歩きました。まだ行くの? と思った時、ものすごく小さいネジバナみたいな形の花が針葉樹の深い緑の中に青白くポツンと一本だけ咲いていたの。すごく素敵だったけど、その花を見たことより、義父の森を大切にする気持ちに感動しちゃいました。

今も森を歩いていて花を家に持ち帰りたくなる時、なんかその時の気持ちがグッと出てきます。花の種類によっては摘んでいい花もあるようですが、よくわからないので、躊躇してしまいます。ちなみに、キノコやベリーは摘んでいいので、みんな取り合いです。息子は食いしん坊なので、「庭で遊ぶ」と言って出て行って、口の周りをベリーで真っ青にして帰ってきます。夏の定番。

私は、よく花を飾るけど、うちの近くの花屋さんが無農薬栽培をしている花農家さんからの花を仕入れているので、そこで選ぶことが多いかな。同じ花でも花器によって見え方も変わるので、お洋服みたいに花器を変えて遊んでいます。

そうだ! 私、ワクチン1回目を打ちました。今、スウェーデンでは人口の70%以上が1回目の接種を終えているみたいです。2回目も終わっている人は、45%ぐらいかな。具合が悪くなる人もいるって噂で聞いて、金曜日に予約して、大正解。私はモデルナ製のワクチンだったんだけど、筋肉痛のもっとひどい感じがあって、左腕が上がらなかったの。痛みといってもそんな大ごとにするような痛みでもなく、気持ちをワクチンに持っていかれただけな気もします。日曜日の夜には痛みも消えていて、月曜日は全く問題なくなりました。夫婦以外で子供の世話の当てがないので、接種後具合が悪くなってもいいように夫とは時間を空けて接種することにしました。

スウェーデンでは全てアプリで管理していて、生まれた年によって予約ができるようになっています。国民番号で生まれた年が分かるので、自分の番号を入力すると家の近く(といっても半径20km圏内)で空いている地域と時間を選べて予約ができます。キャンセルもアプリでできるしすごく簡単です。私は家から電車で20分ほどのところにあるライブ会場というか、クラブで接種しました。建物の外にある「チケット売り場」で自分の予約した時間を携帯で見せて、手をアルコール消毒して、備え付けのマスクをもらって入場。ちょっとライブに行くみたいな気分でした。

2m間隔で列に並んで、その途中に水飲み場があって、やたらと「水を飲んでくださーい!」とすすめられて、プラスティックのカップを片手に、マスクを顎に飾って、飲みながら建物の入り口へ。そこで身分証明証を見せて登録。番号を割り振られて、ダンスフロアーに置かれた7番と書かれたパイプ椅子に座って待機、2分。7番ブースに呼ばれ、看護師さんへ身分証明書をもう一度見せて、登録確認。アレルギー反応や、最近の健康状態を聞かれて、利き手じゃない方の腕に接種。

接種してくれた看護師さんに「あなたはワクチン打ち終わっているの?」と聞いたら、「1回目は終わっているけど2回目はこれから」と言っていました。隣の空間に間隔を開けたパイプ椅子が25席ぐらいバーカウンターに向かって置かれていて、接種後、ワクチン接種の情報紙(スウェーデン後、英語、フィンランド語、スペイン語、アラビア語、他何種類かあったけど、日本語はなし)を取って、その情報を読んだり、携帯いじったりしながら15分待機します。それで、気分が悪くならなければそのまま帰宅という流れでした。写真撮影はしてはいけなかったので、建物内の写真はないけど、外に出た時の写真を撮りました。

6週間後にアプリかSMSかで連絡が来て、そこから1〜2週間以内で2回目の予約を取れるようです。なので、8月には2回目の接種が終わっていそうです。有里枝さんはまだ接種してないかな?

そういえば、また話は変わるけれど、昨日、スウェーデン議会が首相に対する不信任案を可決しました。首相が退陣するらしく、ご近所の方々の話題も白樺事件から一転、そちらへ移っています。スウェーデンの首相が不信任案で退陣を迫られるのは初めてらしくて、ガラス制作中に同僚たちも熱をあげて話をしています。私は、地方自治体への投票権はあるのですが、スウェーデンの国政に投票権がないので、言いたいことだけ言って結局、他人事になっている気がします。ガラス工房が晴天続きのせいで塩をなめながら制作するほど暑いのに、話の内容まで熱くて、とことん暑苦しいです。
爽やかな話題、ないかな〜?

陽子

次回更新は8/4(水)の予定です。写真家の長島有里枝さんからのお返事です。 

山野アンダーソン陽子/Yoko Andersson Yamano

1978年生まれ。ストックホルムを拠点に活動するガラス作家。2007年スウェーデン国立美術工芸大学konstfack修士課程卒業。2011年、ストックホルム市より文化賞授与。2014年よりスウェーデンの国会議事堂内で作品が展示されている。2017年よりストックホルム市郊外のグスタフスベリへ、アトリエとガラス工房を移動し、ヨーロッパや日本を中心に世界各国で展示会を行っている。レストランやバーとのコラボレーションや食器メーカーへデザイン提供もしている。2018年より、静物画の中のガラス食器を考えるプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」を立ち上げ、スウェーデンや日本、ドイツの画家たちとともに作品制作をし、この夏スウェーデンで展覧会を開催予定。「暮しの手帖」でコラム連載も執筆中。www.yokoyamano.com

Text&Photo: Yoko Andersson Yamano
Edit:Kana Umehara