続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilK JAPON WEBで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。その様子を短期連載として数ヶ月間、お届けします。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。
前回の手紙はこちらから

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第2回 「スウェーデンのコロナ対策は人の精神的健康を第一に考えています」(山野・アンダーソン・陽子→長島有里枝)

有里枝さんへ 

こんにちは!
連載が再び始まって、本当にうれしいです。
日本、暖かそうですね。スウェーデンの5月は10度ぐらいになることもあれば雪が降ることもあって、一番不安定な気候ですが、6月になって気候も落ち着いてきました。陽がとても長くなって、22時ごろまで明るいです。ライラックがもうすぐ満開です。

私も有里枝さんのことをずっと前から友達だったように感じて、すっかり気を抜いたお付き合いをさせてもらっています。初めの連載中は連載以外では連絡しないようにしていたし、有里枝さんのことを調べたり、人に聞いたりしないようにしていたのだけど、連載が終わってからは気兼ねなく連絡を取り合わせてもらっています。最近もプロジェクトのことで相談に乗ってもらったよね。考え方や意見に現実味があって懐の深さも感じます。初めて会った頃は、すごい優しいな〜って思っていたけど、考えてそうしてくれていることも最近では気づいています。私は、有里枝さんが悩んでいた事も、大した解決策を出さずに笑い飛ばしたり、私ってひどい友達だな、と思ってはいてもなかなか面と向かって「笑っちゃって、ごめんね」って言えないものです。でも、あの結婚云々の話は、ちょっと面白かったけど。

Covid-19が流行り出した頃は「家からリモートで仕事している」っていう人が、羨ましかったんだけど、1年以上も経つと、工房に行かないと制作できないことや、チームワークで成り立つ肉体労働であることに精神的に助けられているなと思います。手で触れられる距離に誰かがいてくれることの心強さは確かにありますね。スウェーデンのコロナ対策は人の精神的健康を第一に考えての対策で、不安を煽るようなことをしないので、今も3人しかいない同僚の1人が感染中ですが、恐怖は全くありません。むしろ不安がっていない人たちばかりでこちらが不安になる程ですが、感染しても別に白い目で見られるわけでもなく、コロナに感染したことをいい事に完治後は挨拶にハグもしてきますし、私の残したピザをつまんだりしてきます。去年の4月には夫も感染したし、周りで感染している人がたくさんいて、私も症状が出ないだけで絶対感染してる! と思って、抗体検査、PCR検査を何度も受けたけど、全て陰性です。

毎日の生活は、Covid-19用の対策や要請はたくさんあるけど、Covidが流行る前とそんなに変わらなくて、正直、旅に行けないフラストレーションが溜まっているだけで、精神的にはそんなにキツくないんだよね。その部分だけ取れば、スウェーデン政府の対策も捨てたもんじゃないのかな? とも思うけど、正解なんて分からないです。6月1日からは感染症対策が、段階的に解除されています。

コロナ禍の不安の中、大切な方を亡くしてしまうのは無意識のうちにもより深い悲しみがあったのかな、と想像します。私は、父が亡くなって以来、人の死に直面したり、間接的に触れたりすると、その方が「死」によって、私に「死」や「生」を学ばせてくれているんだな、って思うようになりました。「彼女がどこかで生きているかも」っていう余韻は素敵な気がするし、私も自分が亡くなった後に友人たちに、「会えていないだけで、どこかで生きている気がする」って思ってもらえたらいいな、悲しまないでほしいな、と思います。でも、実際誰も悲しんでなかったら、悲しんでよー! って叫びたいけど。

最近の一番の衝撃的な出来事は、うちの外に育つ20m近い白樺の木を2本も切られてしまったことです。私はひどい白樺花粉症ですが、それでも、私にとってとても大切な存在でした。とくに白樺ごしに見るリビングルームからの景色が好きでした。夏の緑いっぱいの枝も、冬の雪の積もった枝も本当に好きでした。「好きでした」と過去形で書いているのも悲しい。有里枝さんたちが遊びに来てくれたらこのリビングでのんびり夕飯を食べよう、この眺めを見てもらおうと、本当に思っていたんです。

ここに15年以上住んでいますが、そのずーっと、ずーっと前からここにあった木を、その木の3分の1も生きてない近所の若い大工さんが1時間もかからず切り倒しました。「暗いから」というのが理由ですが、1年の8ヶ月ぐらい太陽はほぼ出てないし、暗いのって白樺のせいですか? と聞きたかったけど、聞いたところで切り倒されてしまったものは戻せないんだからしょうがないと、諦めました。今、うちの近所ではCovid-19より大事件になっています。住人同士が顔を合わせるたびにため息混じりにその話をして、今となっては切ってしまった大工さんを可哀想に思っています。私もここに書いているし(笑)。窓からの景色って自分たちのもののように思っているけれど、自分のものではないのだと実感しました。

制作も順調です。って、ここに書くとスランプになりそうだけれど、今は、ガラスへの理解と自分が表現したいことへ技術がついてきてくれていると体感しています。そして、同時にこれが長く続かないことも分かっています。歳をとるので。とりあえず、何から足掻いたらいいのか分からず、無駄にYouTubeで筋トレ動画ばかり見ています。見ているだけなので、筋肉は全然ついていないですが。

有里枝さんは年齢を重ねるごとに身についていくことや失うこと、表現に変化はありますか?どう向き合っていますか?

お返事、楽しみにしています!
陽子

追伸:息子が去年の8月から小学校0年生(2018年より義務教育化)になりました。

次回更新は6/30(水)の予定です。写真家の長島有里枝さんからのお返事です。 

山野アンダーソン陽子/Yoko Andersson Yamano

1978年生まれ。ストックホルムを拠点に活動するガラス作家。2007年スウェーデン国立美術工芸大学konstfack修士課程卒業。2011年、ストックホルム市より文化賞授与。2014年よりスウェーデンの国会議事堂内で作品が展示されている。2017年よりストックホルム市郊外のグスタフスベリへ、アトリエとガラス工房を移動し、ヨーロッパや日本を中心に世界各国で展示会を行っている。レストランやバーとのコラボレーションや食器メーカーへデザイン提供もしている。2018年より、静物画の中のガラス食器を考えるプロジェクト「Glass Tableware in Still Life」を立ち上げ、スウェーデンや日本、ドイツの画家たちとともに作品制作をし、この夏スウェーデンで展覧会を開催予定。「暮しの手帖」でコラム連載も執筆中。www.yokoyamano.com

Text&Photo: Yoko Andersson Yamano
Edit: Kana Umehara