続・ははとハハの往復書簡 – 長島有里枝/山野・アンダーソン・陽子

MilKJAPON webで2018年に連載をしていた写真家・長島有里枝さんとスウェーデン在住のガラス作家・山野・アンダーソン・陽子さんの往復書簡。時間が経ち、世の中の状況も2人の関係も変わった今、またやりとりを拝見したい、とおふたりに手紙を書いていただくことになりました。その様子を短期連載として数ヶ月間、お届けします。母親として、ひとりの女性として、クリエイターとして、それぞれの“あり方”をもつ2人。その言葉から、私たちの生き方のヒントもみつかるかもしれません。
前回の手紙はこちらから

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第7回 「仕事とプライベートの線引きは難しい」
(長島有里枝→山野・アンダーソン・陽子)

陽子さま

元気? 
展覧会、無事にオープニングを迎えたみたいですね。インスタグラムで少し様子を見ました。わたしも行きたかったなぁ。

オープニングには、4時間で250人もお客さんがきたのね。常に人の出入りがあって会場は少人数を保っているのか、それとも全員が一堂に介しているのかによって、思い浮かべる状況がぜんぜん違うんだけど、マスクを誰もしていないオープニングに飛び込む勇気、わたしにはまだありません。もし、わたしだけマスクをして行ったら、「あの人マスクしてる!」と陰で笑われたり、「気にしすぎだよ」みたいな批判を直接、受けたりしない?

日本では、九州や広島を中心に長野などまで幅広く、災害を起こすほど強い雨が降っています。東京もこのところ、ずっと雨。気温もグッと下がって、今日は窓を開けていると寒いぐらい。この手紙も上着を着て書いています。

そっか、陽子は読書する時間が持てるんだ。日本では、それが「普通」じゃないと思うなぁ。わたしもそうだったけど、いまのアシスタントも、文芸誌の担当編集者も、みんな自分の時間が欲しい……って、深刻な顔で言うから。この連載を担当してくれている編集者Uさんもこの間メールで、週末の夜に好きなアーチストの配信ライブを30分観る時間すらないって、打ちひしがれていました。

オーディオブック、日本にどのぐらい普及しているのか知らないけれど、とりあえずわたしは利用したことがない。どうやったら入手できるのかな、とは思っていたから気になります。確かに、あれがあればもっと多くの本が簡単に読める! 例えば夕食の支度中とか。大学院に通ってた頃は、本立てを使ってまで読んでたけど(笑)、いまはYouTubeやテレビの見逃し配信を「この時間もったいないなぁ」と思いながら観るっていうか聞いている(見ているのは手元ね)。

わたしもときどき、著書をオーディオブックにしたいと連絡をもらうことがあるけれど、たいていは視覚障害者の図書館用に、という話です。視覚障害者用の図書館で健常者が本を借りることは、原則的にできなかった気がする。オーディオブック、せっかく存在するんだし、ディスレクシアの人にも、わたしにも使わせて欲しい。

陽子のパートナーとのやりとり、うちも大体そんな感じよ。でも、日本に住んでいて自分とか陽子みたいなやり方が当たり前だと思うことはないです。わたしも息子の父親とはそういう関係が築けずに別れているし、もちろん傾向はあるとおもうけれど、単に世代とか、国籍とか、文化の違いというわけでもない気はします。うちで言うと、わたしのパートナーは土日のどちらかを家事にまるごと当てています。あとは息子も大学生になったから、特に夏休みのいまは自分のことだけじゃなく、家族のための仕事を多めにやってもらっています。それでもまだわたしの分担は多いから、暮らすって本当に大変だよね。

スウェーデン人が、子育てに関わらないことを「失う」ことだとみなすっていう話にすごく共感する。子どもが小さいと、家のことって家族間で押しつけ合いみたいになることはあっても、「わたしがやる」「いやわたしが」って取り合いになる話は聞かない。日本人が忙しすぎることとも関係あるよね。ほとんど休みなく働いているところに子供が生まれたら、そりゃあ余裕なくなるもの。保育園のお迎えとか、風呂に入れるとか、そういう小さいことを「大事な時間」と考える感覚は持てないよね。
この国では、子供がいまも「家」のものなんだと思う。家父長制が色濃いから、母親がいつまでも楽にならない。「家」だけじゃなくて、社会も家父長制に基づいた仕組みだから、女性が生きづらいんだと思う。

陽子から質問があった「夏の休暇」問題と「仕事とプライベートの線引き」問題だけど、わたしにはどっちもないよ(笑)。わたしたちお互いフリーランスだし、有償の休暇がないよね。恥ずかしい話、コロナウイルスが蔓延するまでは、週末の休みさえ2、3年取れない生活をしてた。アートの仕事は報酬がとても少ないし、そのなかでも女性は、貰える仕事そのものの規模が小さいと実感してる。だから、アート以外の仕事も限界まで掛け持ちして働かないと、子どもを大学に行かせることもできないし、退職金や厚生年金のような福利厚生の代わりになる貯金すらできない。先の収入の予測がつかないから、忙しいとか、報酬が少なすぎるという理由で仕事を断ることもしづらいし、結果的に自分をすり減らして、でも子どものためには働かなきゃ、という思考回路になりがちだと思う。

それとは別に、いつも自分の作品のことを考えてしまう性質はあって、そのせいでプライベートと仕事の線引きが難しい部分もある。あと、いまって仕事相手がメールやSNSを駆使して連絡してくるから、自分が休んでいる週末でも仕事をしている人に、対応しないわけにはいかなかったりします。

ただ、今日は家事以外の仕事はしないとか、なにもしないでいるとか、そういう日を作ろうと思って、今年は週末ちゃんと休むようにしてる。大型連休や長期休暇を丸ごと休むことは無理だけど……。これを書いているのも土曜日。友人に手紙を書くのは休みの日にすることでも、これって仕事でもあるんだよね(苦笑)

なんにしても、日本はコロナの感染者数がこれまでになく爆増しているから、この夏も出かける予定はありません。家の近所の遊園地が毎日5分間、9月頭まで打ちあげることにしたらしい花火を、市内のあちこちの場所から息子と鑑賞するのが唯一の楽しみかな。

じゃ、またね!

有里枝 

次回更新は9/15(水)の予定です。ガラス作家の山野・アンダーソン・陽子さんからのお返事です。 

長島有里枝/YURIE NAGASHIMA

1973年東京生まれ。1993年、武蔵野美術大学在学中に「アーバーナート#2」展でパルコ賞を受賞し、デビュー。1999年カリフォルニア芸術大学ファインアート科写真専攻修士課程修了。第26回木村伊兵衛写真賞『背中の記憶』(講談社)で第26回講談社エッセイ賞第36回写真の町東川賞国内作家賞を受賞。子育て中に武蔵大学人文科学研究科博士前期課程へ入学、2015年に同課程修了。ジェンダー・アイデンティティや他者との関係性、女性のライフコースに焦点を当てた写真やインスタレーション作品、文章を発表している。近著に『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』(大福書林)、『Self-Poretlaits』(DASHWOOD BOOKS)がある。

Text&Photo:Yurie Nagashima
Edit:Kana Umehara