自分たちらしく胸を張っていたいのに。二人のクリスマスの行く末は?『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』
アビーとハーパーは幸せな同性カップル。両親を亡くしたアビーはクリスマス・シーズンがちょっと苦手。だけどハーパーの方は家族と過ごすクリスマスを楽しみにしていて、アビーを実家に誘います。しかし、両親と引き合わされて家族にも正式な相手として認められるのを夢見ていたアビーは、真実を知ります。ハーパーはまだ家族の誰にもカミングアウトしておらず、アビーは単なる友人として招かれていただけだったのです。恋人同士だと隠しているせいで、ハーパーの実家での二人の関係とアビーの立場は危ういものに。親友のジョンから異性愛の制度にとらわれていると批判されながらも、アビーはハーパーにプロポーズをするために、密かに指輪も用意していたのに!
女優としても有名な監督のクレア・デュヴァルが自分の経験も織り込んだという『ハピエスト・ホリデー』(2020年)は、楽しいロマンティック・コメディ。欧米ではクリスマスは恋人たちのものではなく、家族みんなが集まる大事なイベントです。だからクリスマスを舞台にしたロマコメは自然と、カップルとそれぞれの家族の関係を反映したものになります。
父親が市長選に乗り出そうとしているハーパーの家族は、かなり保守的なだけではなく、エリート志向。三人の娘たちに完璧であることを求めていて、娘たちの方も両親の愛情が条件付きのものだと心得ています。出産を機会に弁護士から転職したために両親の“お気に入り”の座から転落した長女のスローンと、三女のハーパーのライバル関係は最悪で、二人とも自分たちの問題を抱え込んで両親に知られまいとしているのです。
クリスマス休暇は家族との関係を見直す、大切な季節。ハーパーがアビーに言う「あなたは私の家族なの」という言葉は染みます。それは無条件に自分を受け入れてくれる人に向けた、大切な愛の告白。軽やかで楽しい作品ですが、個々の人間の多様性を受け入れてこそ成り立つ、新しい家族の在り方についても考えさせられる映画です。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)、共著に『ヤングアダルトU.S.A.』(DUブックス)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)等。
text: Madoka Yamasaki
illustration: Naoki Ando