父と娘の回復へのドライブ『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』(7月5日公開)
『ブリーディング・ラブ はじまりの旅』は緊迫感のある自動車内のシーンから始まります。窓の外には乾いた風景。運転をするのは中年の男性で、助手席にいるのは若い娘。
やがて、この二人が父と娘であることが分かってきます。カリフォルニア州サンディエゴから、ニューメキシコ州サンタフェまで二人旅。楽しい雰囲気ではありません。色々と確執がありそうな二人です。
父と娘は疎遠。娘はこの少し前にドラッグの過剰摂取で命を落としかけています。父は娘にアートで才能を発揮していた頃の彼女を取り戻して欲しい。娘の方は、かつて自分と母を捨てて家を出ていった父親に対してわだかまりがある。二人の旅路はヒリヒリと痛いもので、それぞれの悔恨が伝わってきます。
実の父と娘であるユアン・マクレガーとクララ・マクレガーが主演を務めているせいか、映画の中の二人の関係性はリアルで、真に迫っています。実の父娘が親子を演じた映画というと、近年ではショーン・ペンとディラン・ペンの『フラッグ・デイ』がありましたが、あちらは父親が自分と娘を主役に据えて撮った映画。『ブリーディング・ラブ』はまだ二十代のクララが自分と父親が主演することを念頭に友人たちをと手がけた脚本が基になっていて、また違う趣です。
ユアン・マクレガーはドラマで共演した女優と恋に落ちて、クララ・マクレガーの母親と離婚。今は父の新しい妻と半分血のつながった弟と良い関係を築いているクララにも、現実を認められない時期があったそうです。この映画は、愛と怒りを自分の父親に思いっきりぶつけるラブレターのようなもの。二人で映画を撮ることによって、お互いに分かり合えたところがあるのかもしれません。
父親から何度も逃げようとする娘。諦めずに向かい合おうとする父。冷たいプールに二人で飛び込むシーンを初め、乾いた心を癒すようなブルーの色が各場面に散りばめられていて、目をひきます。現実の親子の和解のプロセスを見ているような気持ちになる作品です。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando