孤独な魂が呼び合い邂逅する 『異人たち』(4/19公開)
中年のシナリオライターが、彼が幼い頃に亡くなったはずの両親に故郷で再会する。『異人たち』は山田太一の小説『異人たちとの夏』の映画化作品です。同じ原作を大林宣彦監督が1988年に映画化していますが、アンドリュー・ヘイ監督がロンドンを舞台にして撮った今回の作品は、リメイクというよりも、原作を同じくする別の映画として捉えた方がよさそうです。
アンドリュー・スコット演じるシナリオライターのアダムは、自分の子ども時代を題材とした脚本を手がけているところです。ある日、彼はロンドン郊外の故郷の町を訪ねてみます。彼の生家はそのままの姿で残っていました。時間の感覚がなくなってきたところに、幼い頃に死んだ父母が昔と同じ姿で現れて、彼を家に招きます。
大人になったアダムと、交通事故で亡くなる直前の姿のままの父母は同じ年代。大人同士だけど、親子の関係の記憶は残っている。この不思議な再会に際して、アダムは両親に打ち明けたいことがありました。思春期前に孤児になった彼は、自分のセクシュアリティについて誰にも相談できず、両親にも理解されなかったという思いを抱えたまま生きてきました。
原作はノスタルジックな浅草が再会の舞台でしたが、今回は平凡な郊外の街。ここはアンドリュー・ヘイ監督の故郷で、ロケで使われている一軒家も彼の実家です。監督の題材への思い入れが伝わってきます。両親に本当の自分を知ってほしい、受け止めてもらいたいという主人公の思いは切実で、胸に迫るものがあります。保守的な時代の価値観のままで止まっていた母親は戸惑い、息子の身を心配しますが、そんなやり取りも本来ならば叶わなかったことです。子どもだから親に言えなかったこと、聞いてもらえなかったこと。家族の深刻なすれ違いによってできた傷を癒やすような優しさと、寂寥感がここにあります。
アダムがロンドンのマンションで出会うハリーとのラブストーリーも鮮烈です。人恋しい気持ちが生と死の世界を超越して、孤独な魂を結びつける。愛をめぐるおとぎ話のような作品です。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando