A Sense of Wonder「問いと出会う時」
子どもの世界は、驚きや不思議にあふれています。日々、子どもたちはそれらの扉をひとつひとつ開け、自分なりの解を得ながら成長していきます。その扉を子どもはどんなふうに見つけ、また開けるのか? その時、大人はどう寄り添う? 今回はこれからを生きる子どもたちに知ってほしい「問い」との向き合い方。一人ひとりの好奇心や個性を伸ばす問いのデザインの仕方を研究する京都大学総合博物館 教授の塩瀬隆之さんに、問いとの付き合い方について綴っていただきました。
「虹のはしっこはどこ?」
「マルチーズは何語で吠えるの?」
小学生の頃、家から学校までの30分の道のりは、私にとって“問いの宝箱”でした。雨上がりに虹を見つけると、どうしても「はしっこ」が気になってしまい、気づけば通学路を外れて走りだしている。追いかけても追いかけても、いつの間にか虹を通り過ぎていて、戻ってもまた通り過ぎてしまう。そうこうしているうちに虹は消え、学校には遅刻寸然。そんな朝が何度もありました。
通学路には、毎朝ケンカしているマルチーズと秋田犬がいました。図鑑で調べると、マルチーズはイタリア、秋田犬は日本が原産国。
「この2匹、いったい何語で吠えてるんやろう?」
こんな問いは、その後何年も何十年も、ふとした瞬間に現れては消え、また現れる。答えは出ないけれど、考えるのが楽しい。わからなくても困らないし、むしろその“わからなさ”が心地良かったのかもしれません。
問いを持つと、世界の見え方が変わります。虹のはしが気になりだしてから、いろんな“はしっこ”が気になり始めました。裏山を流れる川は、どれだけ水が流れても涸れない。
「上の方はどうなってるんやろ?」
「川のはしっこってどこ?」
社会の教科書を開けば、世界地図の真ん中に日本があるのに、授業では「極東」と習う。
「なんで勝手にはしっこに決めたん?」
「はしっこって誰が決めるん?」
犬の言語が気になりだしてからは、鳴き声の世界にも興味が広がりました。
「犬と猫はお互いの鳴き声の意味がわかるのか?」
「犬の遠吠えにも“美声”とか“音痴”ってあるのか?」
などなど。お気に入りの問いは、次の問いを次々と連れてきてくれるようです。
2020年のコロナ禍以降、「問いが大切だ」という言葉をよく耳にするようになりました。学校でも探究学習が広がる一方で、「生徒が問いをつくれなくて困っている」という先生の声も聞きます。でも、学校で扱う“問い”は、たいてい「解決できること」が前提です。発表会までに結果が出そうな問題、60分の議論で模造紙が埋まりそうな問題ばかり。そうなると、生徒たちも「解決すると褒められそうな問い」ばかりを探してしまう。
「好奇心のない子どもなんていない!」って、大声で遠吠えしたいくらいです。
「どうすれば問いをつくれるようになりますか?」
と聞かれたら、私はこう答えています。
「まずは小さな問いを20個並べてみてください。そのうち2つを、2週間ほど毎日持ち歩いてください」
そうすると、その小さな問いが、前より少し大きな問いを連れてきてくれるはずです。問いは、景色を変えるメガネです。そのメガネをかけて歩くと、世の中の“たくさんの不思議”が見えてきて、その不思議がまた新しい問いを呼び込んでくれる。もうひとつのコツは、探究授業の最終回よりも発表会を前倒しすること。発表の時にお友達が投げかけてくれる小さな問いが、また次の問いを連れてきてくれるからです。
発表会に合わせて、心の奥に隠れていたもうひとつの問いがムクムクと姿を現すこともあります。解決のために「問い」を持つのではなく、景色が変わるような心地良い問いを、どうか抱え続けてほしいのです。
法然院※の貫主さんと雑誌の年始特集で対談した時、「みなさん、自分の生きてるうちに解決できそうな問いのことしか考えないんですか?」と言われ、ハッとしました。60分どころか、60年持ち続けても気になる問いに出会ってみたい。
ある朝、始発の新幹線で京都を出た頃、朝時雨が上がりました。車窓から見えた伊吹山のふもとに、朝日を受けてくっきりと虹がかかっていました。新幹線と並走するように虹がついてきて、やがて少しずつ後ろに下がっていく。30年越しの「虹のはしっこ」との再会に、胸がじんわりと高鳴りました。
※京都市左京区鹿ヶ谷にある浄土宗の寺。
塩瀬隆之
1973年生まれ。京都大学工学部卒業、同大学院工学研究科修了。博士(工学)。専門はシステム工学。2012年7月より経済産業省産業技術政策課にて技術戦略担当の課長補佐に従事。2014年7月より京都大学総合博物館准教授に復職、2026年4月より現職。小中高校におけるキャリア教育、企業におけるイノベーター育成研修など、ワークショップを多数主宰。平成29年度(2017年度)文部科学大臣賞(科学技術分野の理解増進)受賞。日本科学未来館「“おや?”っこひろば」総合監修者。NHK Eテレ「カガクノミカタ」番組制作委員。著書に『ありのままの君を受け入れる学びの多様化学校』(明治図書)、共著に『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』(学芸出版社)など。2025年の大阪・関西万博では日本館レガシープロジェクト ファシリテーターを務めた。
Text: Takayuki Shiose
Illustration: Yuki Maeda
Edit: Sachiko Kawase