国立西洋美術館を題材にした絵本『森のはずれの美術館の話』が出版

「ひとが 絵と ふかく むすばれる
ここには そういう ねがい が こめられている」
「人びとは 建築家の 結界のなかで 西洋のかけらたちと 出会う」

中世から20世紀のルネサンス画、モネ、ルノワールなどの印象派、そしてピカソといった西洋美術から彫刻までを収蔵する東京・上野の「国立西洋美術館」。西洋美術全般を対象とする国内唯一の美術館を題材にした絵本、『森のはずれの美術館の話』が出版された。文を手がけたのは『西の魔女が死んだ』などで知られる作家の梨木香歩、そして絵は「リサとガスパール」シリーズで世界中の子どもたちを魅了してきた画家、ゲオルグ・ハレンスレーベンだ。

2部構成となる絵本。第1部では、「電⾞に乗って美術館にきた ある⺟⼦の話」が展開される。美術館の中でお母さんとはぐれてしまうことから始まる物語は、たったひとりで美術館を進む中、アヒルや紳士、そして一枚の絵画との出会いを印象的に描いている。作中では、西洋美術館の所蔵品が数多く登場するのも見どころ。

絵画に触れる子どもの素直な喜びを描きながら、その無垢な感情に呼応するかのように、大人の目線で描かれたエピローグとしても読めるもう一つの物語が。それが、第2部の「⻄洋美術館クロニクル」だ。この第2部は、数年後の未来を舞台にした物語。東洋に現れた「⻄洋への窓」である美術館が生まれるまでの歴史を、 ファンタジーと現実が交錯する詩的な語り⼝で描かれている。

ハレンスレーベンの描く、床に映り込む透明感あふれる光や影は、静謐な美術館へと読者を誘うよう。わずか6色の絵具で奏でられたとは思えないような温かみある色彩が、読み手をささしく包み込む。さらに、梨木香歩の訴えかけるような言葉の数々が、美術館という場所を、子どもの目線と大人の気持ちを見事に取り込みながら、特別な空間として描いている。

国立⻄洋美術館を設計した建築家、ル・コルビュジエの建物が守り続ける静かな空間で、“東”と“西”が出会い、未来へとつながっていく。幻想と史実が交差する物語は、美術館という非日常の空間の魅力をあらためて感じさせてくれる。そして、親子で絵本を読み終わった後の最大の喜びは、実在するこの美術館に足をはこぶということ。読み終えた後も続く、絵画の不思議と美術館のワクワクもこの絵本の醍醐味だ。

「この物語創りに着⼿する前に考えていたことは、収蔵作品の最初のコレクターや戦時中それを守り通した⼈、 さらに確固たる伝統芸術がすでに根付いているこの国に、⻄洋美術の殿堂となる建物を依頼された建築家の意気込みと⾃負……。多くの⼈びとの思いが畳み込まれた美術館の物語であるとともに、絵を⾒るためにやってきた、たった⼀⼈の物語でもなくてはならない、ということでした」

ー梨⽊⾹歩

『森のはずれの美術館の話』国⽴⻄洋美術館のみで販売される、限定版の表紙

『森のはずれの美術館の話』
⽂:梨⽊⾹歩 絵:ゲオルグ・ハレンスレーベン
編集:永岡綾 装幀:名久井直⼦ 写真:⽊村和平
協⼒:国⽴⻄洋美術館
(ブルーシープ刊 ¥2,200)

Text: Miki Suka