名建築家の人生と作品を巡る映画『アアルト』が公開
北欧デザインを代表する、不朽の名作とも呼べる「スツール60」。波打つようなガラスがアイコニックな「アアルトベース」。そして、自然との見事な調和を見せる「ルイ・カレ邸」などの建築物の数々。北欧の巨匠とも呼ばれる建築家でデザイナー、アルヴァ・アアルトが残したデザインは現代においてもなお、人々に愛され続けている。
1898年、フィンランドのクオルタネで生まれたアルヴァ・アアルト。1976年に亡くなるまでの生涯で、200を超える建築作品、40を超える家具や照明作品、フラワーベース、テキスタイルなどをデザインし、モダニズム建築の礎を築いた建築界の巨匠として歴史に名をのこす人物だ。今年2023年に生誕125年を迎えたことを記念して制作された映画、『アアルト』が10月13日より、全国で公開される。
往年の写真や映像を盛り込んだドキュメンタリータッチのこの映画では、アアルトのデザイナーとしての人生を突き動かした妻、アイノとの人間味あふれるやりとりが印象的だ。アアルトと同じく建築家であったアイノとの親密な手紙のやりとりや、ふたりで過ごしたアトリエ、家族で暮らした自邸などが登場する。彼女の早すぎる死までの濃密な時間とともに、アアルト夫妻が世界を舞台に活躍の場を広げる様子が鮮やかに映し出される映画は、彼らの人生と作品をめぐる旅そのもの。
手掛けたのは、フィンランドの新鋭女性監督、ヴィルピ・スータリ。「幼い頃、アアルトが設計した図書館で過ごし、彼の建築の虜になった」と語る彼女が、残された私的な手紙、同世代を生きた建築家や友人たちなどの証言を盛り込みながら、アアルトの知られざる素顔を躍動感あふれるタッチで描いている。作品の中で、フィンランドの子どもたちが「ヴィープリの図書館」を訪れるシーンもあり、観ている人がアアルトの映像ツアーに参加しているかのような感覚にもなるはず。
主張しすぎない、けれど側に置くだけで心が豊かになり、日常が彩られる。人と環境に優しいデザインで、現代の生活にも溶け込む逸品はどのようにして生まれたのか。アルヴァ・アアルトの生誕125周年の今年、名作誕生秘話にぜひ触れてみては。
text: Miki Suka