妻のガン闘病を通して家族愛と友情を描く『OUR FRIEND/アワー・フレンド』
『Our Friend/アワー・フレンド』(2021年10月15日公開)は卵巣ガンで妻を若くして失った作家のマット・ティーグの体験が元になった映画です。妻であるニコルが病を宣告された時、マットはジャーナリストとして海外で忙しく働いていました。彼は懸命にニコルを看病しますが、今まで彼女に任せっきりだった家は荒れ放題。幼い二人の娘の面倒もままなりません。ティーグ家を救ったのは、マットとニコルの親友、デインの存在でした。その時、別の街に暮らしていたデインは自分の仕事を離れ、恋人も地元に残して、14ヶ月もの間アラバマ州フェアホープのティーグ家で暮らして、親友の家族を支えたのです。
映画で主人公のマットとニコルの夫妻を演じるのは、繊細そうなケイシ―・アフレックとダコタ・ジョンソン。デインの役を大柄なジェイソン・シーゲルが好演しています。病院で妻に付き添うマットに代わって、デインは家を掃除してゴミを出し、溜まっている洗濯物を片付け、ペットの犬を動物病院に連れて行き、マットの娘たちに朝食を作って学校の送り迎えをします。デインがカーラジオから流れてくるヒット曲に勝手な歌詞をつけて歌って、娘たちを笑わせるシーンは心温まる場面です。彼のユーモア感覚とやさしさに、両親だけではなく、子どもたちも救われているのがよく分かります。デインは彼らにとって肉親以上の存在、もはや「友人」という枠を超えて「家族」の一員なのです。
きちんとした人生の計画も持たず、何かとティーグ家に来て居候を決め込むデインを笑う友人もいますが、彼にとってもティーグ家の人々はなくてはならない存在。人生の迷子であるデインもまた、自分を家庭に受け入れてくれる親友たちに感謝しています。ティーグ家はデインも含めた家族一丸となって、ニコルとの最後の日々を出来る限り素晴らしいものにしようと努力し、悲しい出来事を乗り越えていきます。支え合う親友同士の絆と真心がじんわりと染みてきます。近親者じゃなくても、困った時は親しい人にこんな風に頼っていいのだと思えるのです。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)、共著に『ヤングアダルトU.S.A.』(DUブックス)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)等。
text: Madoka Yamasaki
illustration: Naoki Ando