おいしいおはなし 第33回『太陽の子』おかあさんのラフティーはみんなの自慢の味!
夏休みには宿題の読書感想文を書くための「課題図書」がありました。へそ曲がりの私は、そんなふうに「読んでね」と学校や大人からすすめられていた本を敬遠していたので、この灰谷健次郎の『太陽の子』を手に取ったのは主人公のふうちゃんよりもだいぶお姉さんになってからでした。
物語の主人公ふうちゃんは、神戸に暮らす小学6年生。ふうちゃんのおうちは「てだのふぁ・おきなわ亭」という沖縄料理屋さんです。おとうさんもおかあさんも沖縄の人で、お店には沖縄出身者を中心に近所の人が集まります。ふうちゃん自身は神戸生まれ神戸育ちの自称「神戸党」で、大人たちから沖縄の美しい自然のことや島唄を教わって育ってきたものの、沖縄のことはよく知りません。しかし、あることをきっかけに、周りの大人たちが生まれ育った沖縄のことを、なぜ彼らが今神戸に暮らしているのかを、知りたいと思い始めます。
わたしをかわいがってくれる人は、わたしをかわいがってくれる分だけ、つらいめにあってきたのだということが、このごろのわたしには、なんとなくわかるのです。だから、わたしはいっそう、みんなのことを知りたいのです。知らなくてはならないことを、知らないで過ごしてしまうような勇気のない人間に、わたしはなりたくありません。(276頁)
小学6年生のふうちゃんのまっすぐな瞳は、大人たちをたじろがせ、そして勇気を与えます。読む人にも「自分が立っている〝今〟に到るまで、どんな道のりだったのか知っている?」と問いかけ、それと向き合うきっかけをくれたような気がします。そして、ふうちゃんと一緒に知る沖縄の歴史は、読みながら顔見知りとなった「てだのふぁ・おきなわ亭」の大人たちが体験したものとして知るがゆえに、生々しい痛みとして感じられ、読んでいて胸が苦しくなります。でもまっすぐにその痛みを見つめた小さな主人公に導かれ、支えられながら、この本を読み終えました。
おはなしには、戦争の歴史だけでなく、沖縄でずっと受け継がれてきた料理や唄もたくさん登場します。特に「てだのふぁ・おきなわ亭」のシーンに登場する沖縄料理が実においしそう! ほかにも、会話に出てくる方言や島唄の歌詞、三線の音色など、沖縄の文化がたくさん描かれます。そうやって本の中で知った踊りや唄や料理は、今、沖縄を旅すれば実際に見て聞いて味わうことができます。そんなとき、心のどこかでこの物語を思い出し、年齢を重ねてきっとかっこいいおばちゃんになったふうちゃんに会えたらいいな、と思うのです。
たくさん心を揺さぶられる物語を読んだあとは、お腹が空きますから、本に登場する沖縄料理の真打で元気をチャージしましょう。ふうちゃんのおかあさんのつくる「てだのふぁ・おきなわ亭」自慢のラフティーです。
〔材料〕
(つくりやすい分量)
豚バラ肉(かたまり) 500~ 600g
しょうが 小ひとかけ
出汁 300㎖
泡盛 200㎖
黒糖(粉末) 大さじ1と1/2
しょうゆ 大さじ2
〔つくり方〕
- 大きめの鍋にたっぷりの水を注ぎ、豚肉をかたまりのまま入れる。強火にかけ、沸騰したら中火にして10分ほど茹でる。
- ❶を茹でこぼし、アクを水でよく洗い流す。鍋についたアクも洗い、肉と水を入れ、もう一度30分ほど茹でる。
- 豚肉を取り出して粗熱を取ってから、4~5㎝の大きさに切る。豚肉が重ならない状態で入る鍋に豚肉を並べ、出汁、泡盛、黒糖を加えて蓋をし、弱火でことこと20分ほど煮る。
- しょうゆ半量を加えて、さらに20分ほど弱火で煮る。残りのしょうゆとせん切りにしたしょうがを加え、蓋をしてさらに煮込む。
- 肉が箸で切れる程度にやわらかくなったら火を止め、そのまま冷ましながら味を染み込ませる。食べるときには、軽く温める。
しょうゆは一度に全量を加えると、肉がかたくなってしまいます。半量ずつ加えて、味を馴染ませながら、やわらかく煮上げるのが大事です。
文と料理:本とごちそう研究室(川瀬佐千子・やまさききよえ)
写真:加藤新作
スタイリング:荻野玲子