『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』(9月15日公開)こじれすぎた姉弟とその家族の物語
誰よりも近しい他人。だからこそ、きょうだい間の関係性は複雑です。この映画では姉のアリス(マリオン・コティヤール)と弟ルイ(メルヴィン・プポー)が互いを嫌いあっています。気が合わないとか、険悪な仲だというところを越えて、憎しみあっていると言ってもいい。発端はもはや、本人たちにもわからなくなっています。ずっと舞台女優で脚光を浴びてきた姉が詩人として成功した弟に嫉妬するようになったせいなのか、幼少期における家庭内でのえこひいきが原因だったのか。ルイの息子が幼くして亡くなったことが状況をより複雑にし、二人は疎遠になります。
それでも、姉と弟が顔を合わせなければいけない事態が起こります。両親が多重事故に巻き込まれ、重体となって病院に運び込まれたのです。アリスは、病院の廊下でルイを見ただけで倒れ込んでしまうほど精神的に追い込まれています。一方、実家に戻ったルイは姉から受けた嫌がらせや、過去の確執を思い出して更に怒りを募らせていくのです。
出口の見えない憎悪に苦しむ二人の物語というと暗くシリアスなものを思い浮かべがちですが、監督のアルノー・デプレシャンは、不思議と明るいトーンで二人のストーリーを描いています。こんな関係は当人たちにとっては深刻でも、ちょっと引いてみると滑稽なところもあって、いつかは何らかの形で決着がつくのだと言いたげでもあります。
劇的な和解はありません。でも固く結ばれてずっとこのままだろうと信じていた結び目がするりと解けるような瞬間が、アリスとルイにもやって来ます。実のところ、この姉と弟はよく似ているのです。アーティストとして自分の仕事に打ち込む姿勢も。頑固で不器用なところも。アリスとルイ、お互いにしか分からないことがある。それを受け入れて、前に進もうとする二人の姿が印象的です。人間として成長しなければ、お互いに乗り越えられない障壁があり、姉と弟は傷つけ合いながらも、本当はその壁を越えるために、ずっと手を取り合っていたのかもしれません。
山崎まどか
15歳の時に帰国子女としての経験を綴った『ビバ! 私はメキシコの転校生』で文筆家としてデビュー。女子文化全般/アメリカのユース・カルチャーをテーマに様々な分野についてのコラムを執筆。著書に『ランジェリー・イン・シネマ』(blueprint)『映画の感傷』(DU BOOKS)『真似のできない女たち ——21人の最低で最高の人生』(筑摩書房)、翻訳書に『ありがちな女じゃない』(レナ・ダナム著、河出書房新社)『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』『ノーマル・ピープル』(共にサリー・ルーニー著/早川書房)等。
Text: Madoka Yamasaki
Illustration: Naoki Ando